「花のある暮らし」と聞くと優雅な生活を想像する。食卓、リビング、玄関やトイレにも、一輪だけであっても、空間をパッと明るくしてくれる。また、家にお仏壇があるなら、キレイな花を手向けて心穏やかにお祈りを。花だけでなく、観葉植物でも同じような癒され感覚はあり、家の中に緑があるっていいな、と常々思うところ。花畑へお出かけすればキレイ!となるワケだし、野に咲く花々も感じ良し!だ。

「仕事だと歓送迎会とか祝い事、プライベートだと冠婚葬祭でしょうか。ここ最近は若い人たちもお店にいらっしゃいまして、もちろん贈り物として花束やアレンジメントの注文をいただきますが、お部屋に飾る人が少しずつ増えているんですよ」

新型コロナウイルス感染症は生活スタイルもビジネスも一変した。フラワー業界においては結婚式や葬儀が激減、年度の切り替わり時期の3月〜4月は歓送迎会が中止。式典も開店祝いもフラワーレッスンも縮小されていった。

「花に関係する人たちすべてがこの変化に適応していかないといけません。2020年の緊急事態宣言から、今までやってきたスタイルではお店の継続が厳しい状態になっていきました」。

どんなに厳しい状態でも、花に触れている時は笑顔になる佐々木さん。だが、時が過ぎていくにつれ表情も変わっていた。経営状態の悪化以上に心が壊れ始めたのである。

「ダメでした。今までのやり方を変えないといけないのは知ってはいるけど取り組めない。プライドでしょうか、意地でしょうか、昔の成功体験でしょうか。接客でも花を売らなきゃいけないという必死さが出てしまい、お客様の本位と異なる提案をしてしまう。どん底でした」

 

変わることは今を受け入れることだった

財務状況の分析では、なぜそのような状況になったのか原因を突き詰め、全体的な動き=ワークフローも細かく見ていく。なぜなのか、だから何なのか、というwhyやso whatなどのマーケティング要素も役立つ。数字が物語る実情を受け止めながらも、なぜ・どうしてと自問自答していく佐々木さん。時にはコンサルタントの視点も取り入れ、金融機関の指摘も真摯に向き合った。

「自分を変えることがどういうことなのか、まったく理解できませんでした。いろいろと試して結果が出たこと出なかったこと、たくさんありました。しかし、振り返ることは少なく、成功・失敗体験だけが記憶されていた。これが良くも悪くもプライドだと気が付きました」

佐々木さんは2つのことから始めた。売上原価の分析と販路開拓における情報戦略。売上原価については馴染みの仕入れ先が主であったが、仕入れ値が適正かどうかについては分からなくなっていた。つまり、市場の状況なり世の中の動き、生産者の状況などの〝今〟を肌で感じて、記憶されていたことをアップデートしなければならなかった。プライシングについても同様であった。

「売れば売るほど赤字になっていました。仕入先だけでなく、事業全体のコストの見直しと売価の設定を、今の経営状態に合わせないといけませんでした。お得意様のことも、新規客のことも、いろいろな事が頭をよぎりました。しかし、このまま続けると最悪な事態になることは明白。決意しました」

情報戦略については、DMやポイントサービス、ディスカウントなど、考えられることは行ってきた。SNSも駆使しながらお店の情報を発信した。だが、その発信方法や顧客サービスなどの内容を見直すことや分析、客観的な視点で評価が不足していた。

「伝え方ですよね。写真の撮り方とか、言葉の使い方とか。自信があっても結果につながっていない。受け止める、受け入れるしかないんだと。ハッとしました」

 

変化の予兆が見えると表情も変わる

まず着手したのはバリューチェーンの見直しだ。仕入れから廃棄までを分解し、どこに問題点があるか抽出した。抽出後は、現状分析をして改善策を構築。1つひとつ向き合って、改善点について決断し、行動に移した。特に、廃棄していた花については大きく見直した。

「売れなかった花を再生して商品化しました。ドライフラワーとかSWAGにして、特に若い世代へ情報発信していきました。いろいろなノウハウも教えてもらいながら、全部やることは難しくて、その中で1つでもやれることがあれば実践していくようになりました」


花屋さんとしてのプライドに柔軟性を帯びてくるとお客さんの動きも変わってくる。MAP対策(地図アプリにおける検索対策)を頼りに、若い世代のお客様が思わぬところから訪れ始めた。接客方法については、いろいろと提案するスタイルではあったが、お客様の本音を引き出すテクニックにシフトした。

「反応があって来店者数が増えてくると、意識が昔の悪い習慣だった頃に戻ってしまうんです。そうなってしまうと、お客様とすれ違って『あ、いけない。また戻ってしまっている』と反省するんです。こうなってしまう自分を理解して、危ない!と思ったら気持ちを落ち着かせるようにしています」


また、お店の外、中についてもDIYでコツコツと改装。草花が鬱蒼としていた外の状態も、ガーデニングのアレンジスタイルを提案する仕様に変え、それぞれの場所にテーマ性を持たせた。お店の中はSWAGを置きつつも、季節とトレンドを掛け合わせたディスプレーに取り組んでいる。

「毎日楽しくなりました。どうしよう、どうしようと悩んでいた日々から気持ちも明るく、前向きに考えることができるようになりました」

 

数字が物語る佐々木さんの汗と涙

太陽に向かって大きく花開くひまわりのように、佐々木さんは前を向いて気持ちも明るく取り組んでいる。常連さんの反応が気になった値上げも、DMの仕組みも、Instagramの投稿も、悩み抜いた判断が結果として、利益として感じるようになった。そして決算、決していい一年だったとは言えない数字だが、一生懸命取り組んだことが顕著に数字になって驚いた。

「利益構造が変わり、効率もよくなっていました。振り返ってみれば、当時はコロナや花離れとか、ネガティブな要素ばかり目が言っていたので、あのままの状態だったら…もしかしたら今は…最悪な事態になっていたと思います」

努力していた時も、辛かった時も、

お店の花たちはいつも佐々木さんの背中を見て心配してたと思います。

愛猫・ひじきも、元気出してよって言っていたかもしれません。

一生懸命頑張って結果を出したんですから、

みんな笑顔に美しく、大きな花を咲かせることでしょう。

ところで佐々木さん、今日って何曜日です?

 

佐々木圭一さん

新潟市出身。幼い頃、料理人か花屋さんになることを夢見ていたが、社会人のファーストステップは自動車のエンジン加工職人だった。数年後、夢へ向かって大手の花屋へ転職。10年後に起業することを決意しつつ、新規事業の責任者になるタイミングで独立し、1999年に『花の日ようび』をオープン。

花の日ようび
住所:新潟市西区山田678
連絡先:025-377-7425
営業時間:9時~17時
Instagram

 

>関連記事

戦略のひとコトQ&A

私のコトバ

 

promocarrie