夢中になることはいいことだ。我を忘れてとことんハマる!良くも悪くも周りが見えなくなって、怖いほどの集中力を発揮する。瞬きはいつしているのかと不思議なくらい鋭い眼光で、ドライアイ一直線で心配をしてしまうほどの眼力。まさにこんな言葉が似合う(いい意味です)のが小村さん。ムッキムキの大腿四頭筋は競輪選手なみの肥大化というかゴツい!とんでもないスピードで自転車を乗るのだろうと想像してしまう。本人曰く、安全運転なスピードらしいが、ママチャリの私からすれば相当なスピードを出しているに違いない。東京都内では車と自転車が車道を走っていて、すり抜けなんかもあったりする。しかし、地方都市となると車社会であり、自転車を乗っていると怖さを感じることもある。

「もちろん、移動は自転車です。相当な荒天ではない限り、どこへいくにも自転車ですよ。新潟ではサイクリングロードが少ないので、車と自転車、自転車とランナーの共存がまだまだ難しいですよね。煽られたり、幅寄せされたり、まぁ怖い目にあいました」

海沿いの道を走っているとサイクリストを目にすることも多く、一方、街中の一部では自転車専用道路が整備されつつある。だが、警視庁や新潟県警のデータによると都内では自転車事故は増加しており、新潟では減少傾向にある。新潟においては、言われてみれば自転車を乗っている人が少なくなっているというか、生活動線において自転車よりも自動車である。

 

マニアックでもいいじゃない!と思いますねぇ

子供の頃からスポーツタイプの自転車に親しみ、学生時代も社会人になっても自転車のある生活を過ごした。東京都内ではほとんどが自転車での移動で苦はなく、むしろ、まちが呼吸している雰囲気を楽しみながら、毎日が旅しているような感覚だったという。休みの日には友人と山の中を駆け巡り、アマチュアのメカニックとしても友人知人の自転車をメンテナンス・カスタムしていた。今回の起業は趣味が高じて…ということもひとつある。

「自転車のことが好きで好きで。趣味が爆発して、技術をすべてサイクリストのために活かしたい思いから、ショップをやろうと決意しました。そう思ってから半年以上経ちましたね(笑)」

サイクリストたちが集まれば、当然ながら情報交換がある。仲間はいろいろな地域からやってくるため、「最近さー」とか「このパーツね」とか、とにかく自転車のマニアックな情報のオンパレード!また、お店のことやメカニックの口コミも話題になる。そうしたサイクリストの日常的な話に耳を傾けるうちに、小村さんの起業熱がヒートアップしたのは間違いない。

「誰かがやらないと(笑)気がつけば、アマチュアながら自転車にまつわるカスタム関連の資格(ガス溶接含む)は6つほど取得していました」

 

一人で考え抱え込みすぎると我を見失う

お店の候補地がなかなか見つからない。自転車の展示はそんなに考えていないから整備できるくらいのスペースでいい。家賃の目安は2万円とか3万円というが、そのような物件はどこにあるのか。お店の条件としては、行きやすい、分かりやすい、を基準にしている人も多いだろう。だが、小村さんのカスタムショップはそんな考えは不要だとか。

「確かな腕があればサイクリストのコミュニティに知れ渡り、どんな場所でも訪れてくれると考えています。もちろん、好環境でお店を開きたいですけど、家賃10万円ってなると売上目標とか利益とか、毎日必死になってしまう気がするんです。考えることが山盛りで。自分のやりたいこと、提供したいサービスありきで考えると、家賃の目安は3万円くらいですかね。内装とか情報戦略も、大々的にやらなくてもいいかなっていう感じなんですよね」

ネット検索をすれば、事業計画書の書き方はいろいろ出てくる。いろいろ出てくるからこそ、何が真実で有効なのか見極めることが必要になる。数パターンの書類を作ったことで、本当にこれでいいのか!? と疑問を感じるようになった。販売計画や資金繰りについても、緻密に考え何度もシミュレーションをした。事業計画書を作れる力は付いても、作った計画が本当にいいのか見返すほど不安になる。自分が目指す事業は何かぼんやりとすることもあったという。

「自分一人の頭の中で考えすぎてしまい…そうしたら矛盾が生じてきました(笑)自転車のカスタムだけで本当にいいのか、サイクリストは本当にお店へ来てくれるのか、1つ1つ考えて、ブレていたところを調整していきました」

抽象的なことは具体的に、ざっくりとした目標数値は根拠を用意して、先の見通しについても意気込みだけでなく可能性を実現するためのプロセスを言語化した。そうしていくことで、自然とやりたいことがクリアになっていき、計画は研ぎ澄まされていった。

 

サイクリストの拠点を目指してスモールスタート

新潟市内のシーサイドラインには休日ともなれば多くのサイクリストが風を切って走っている。角田浜や弥彦山エリアまで足を伸ばせば競輪選手がトレーニングをしていることもある。一方、山道においては整備されていないような荒れ地を駆け巡るコースも。海も山もいかなる路面状況でも小村さんにとってはコースと化す。どんな場所であってもサイクリストは訪れる、という小村さんなりの分析を経て、事業はスモールスタートした。

「当初考えていた物件が白紙になり、とはいっても計画をストップすることはできません。まずはできる範囲でのスモールスタートをしました。嬉しいことに、すでに数台のカスタム・メンテナンスのご依頼をいただいています」

今の時点でお店を構えた正式なオープンはもう少し先になりそうだが、事業は小さく始まった。主に実家の空きスペースが工房となり、プチDIYで装飾したスペースにはマニアックな車両から工具までいろいろ。小村さんのカスタムを待つ自転車も数台置かれている。実家とはいえ、どことなくお店の雰囲気というか、マニアックな事が詰まっている濃厚な感じというか、趣味がギュッとしているというか、満たされた雰囲気に包まれている。

「少しずつ自分のペースで小さく始めたことによって、見えたこともあります。改良すべきこと、変化させること、これから考えること。事業計画策定時には気が付かなかった要素が、今はクリアになっていき、不安というよりは楽しい毎日です!」

道なき山の中も、海沿いも、まちでも、
サイクリストは“場所”を目指して風を切る。

まちの自転車屋さんとしてはちょっとぶっきらぼうだけど、
自転車のこととなれば、それはそれは笑顔になりますわねぇ。

私、ママチャリなんですけど、カスタムできますか?
「そのままがいいですよ(笑)」
おっしゃる通りでございます。

 

小村将一さん

新潟市出身、東京工芸大学芸術学部卒。幼少時代から自転車やアウトドアライフに興味を持ち、都内時代には『エルブレス新宿店』や『サイクルベースあさひ板橋四葉店』に勤務。2011年ごろからフリーランスメカニックとして活動をスタート。新潟にUターン後は『モンベル新潟万代店』に所属、2022年に『コムロボワークス』をオープンした。

コムロボワークス
住所:新潟市西区真砂※店舗住所等は来店予約時にお伝え
連絡先:025-377-7425
営業時間:8時~20時
定休日:木曜
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