「顔の大きさや輪郭に対して、サイドやトップのカットを工夫したり、ボリュームを調整したり、顔まわりのデザインが得意です」

まちを歩けばいろいろなところに美容室があって、住宅街にもひっそりと佇むお店があったりする。家族経営から何十人ものスタッフがいる大手まで規模はさまざま。営業終了後、あたりが真っ暗にもかかわらず煌々と光るお店には若手スタッフが黙々と技術を磨いている、そんな光景を誰もが目にしたことがあるだろう。お店がたくさんあるということは競争力が働く。顧客が付くのは、技術力はもちろんのこと、オーナーやスタッフなりの人間力があってこそ。心地よい接客には雑談力が試される。また、サービスも多様化していて、ヘッドスパやエステなど、美にまつわる要素を絡めたサービス提供も増えている。ヘアスタイルとネイル、ハンドマッサージ、リフレクソロジー、サプリメントなど。美の追求は実にさまざまだ。市場が多角化していく中で白井さんのコンセプトは明確だ。


「顔まわりのデザインから、カラーリングへの展開でしょうか。ごく普通で当たり前だと思いますが、シンプルだからこそ、技術力がないとお客様に見透かされてしまいます」

白井さんの顔まわりのカットやカラーリングは美しい。私の半分以下という顔の小ささといい(ホントです)、髪質も艶やかで、耳あたりの毛先の雰囲気たるや!である。

「自分で自分の髪の毛は切れませんからねぇ(笑)あれこれ言って切ってもらっています」


ごもっともである。

 

愛おしい子供たちと仕事も一緒に

理美容の専門学校卒業後は新潟市内の美容室に就職。見習い時代はコツコツと修業し、連日夜まで技術を磨いていた。他のお店へ転籍してからも努力を積み重ねた。気がつけば15年ほど過ぎ、顧客はもうすぐ4桁になる。そして、プライベートでは双子を出産。育休産休中は育児に奮闘しつつも、仕事に復帰する日が近づくにつれ、自分なりに思うことがあった。


「出産のため職場から離れたことがターニングポイントでした。自分のやりたいことが見えてきたことと、一番は仕事と育児を両立させたいと思うようになりました。子供たちの顔を見ていると、仕事で外に出ることと子供たちと離れることの寂しさというか、こういった感情って誰にでもありませんか?寝顔とか泣き声とか、愛おしいですよね」

ワーク・ライフ・バランスとか、男性の育児参加とか、世の中には理想の働き方を提唱したり啓蒙する活動がある。だが、実態として仕事と両立になると、勤務先の経営者に理解があるか、組織に仕組みを導入して変化させるか、社風を変えるくらいまでの覚悟が必要だ。この働き方改革(この言い方はもう古い!?)は業種によって難しいこともあり、やはり店長なり経営者なりの考え方と決意次第である。現場から意見を上げも「で?」と上から言われれば、お先真っ暗というモノを言えない空気が漂ったりする。だが、そんな会社は気がつけば人材が離れていき、人材の新陳代謝が激しく、マイナスイメージがついていく。人材確保や採用活動が重要になってきている今、こういった制度を導入しないと選ばれない企業になってしまうことも少なくない。


「私なりの理想の美容室が見えてきて、いろいろと思いを巡らせていくと独立かなって」

 

似合わせデザインカットですって?

コンセプトは何か。顔まわりのカットが得意ということをコンセプトにすればいいのか?と思うけど、業界を見渡せば顔まわりのカットやデザインはごく当たり前のことで、「なんだって?顔まわり?そりゃそうじゃないの?」とお客さんに思われる。差別化となる要素は何か、白井さんのお店が選ばれるためにはどういうコンセプトが必要か研ぎ澄まされなければならない。かつ、ありそうでなかった要素が唯一無二を生みお客さんはファンになる。コンセプトはそういう考え方でとことん磨かれていく。


「今までのお付き合いで通ってくれるとしてもずっと続くとは限りませんし、値段で勝負すると客数を増やさないといけません。いろいろと考えながら突き詰めた結果、顔まわりのデザイン×似合わせカラーの掛け合わせをした〝似合わせデザインカット〟というコンセプトを生み出しました(笑)」


顧客数が物語るように、白井さんは話術だけでなくその人それぞれの顔の大きさから形、雰囲気や趣味趣向まで、コトバを交わしながら瞬時にお客さんの望むスタイルを見極めていく。顔まわりのデザイン、カラーリング、トリートメントに至るまで、頭の中ではアレとコレと組み合わせていき、すっとお客さんに提案。事業計画書の下書きを見せてもらったが、びっしりと書かれた内容から白井さんの緻密さが伝わってくる。


「気づきました?何に対しても細かいところまで気になる性格です(笑)」

 

一歩踏み出した瞬間に、新しい目標へ

2022年8月3日、白井さんの美容室『yom』はオープンした。住宅街に立つ、日当たりのいい場所にお店はある。自身の生き方、子供の成長、すべての思いが集約されていると言っても過言ではない。


「今はお店としての標準装備を整えていく事で必死になっています。支払い方法だったり、接客であったり、美容室としての必須要件というか、お客様にとって当たり前のことをちゃんと提供できる状態を目指しています。また、いろいろとこだわってお店を作っていますから、棚も、鏡も、壁も、1つひとつインスタで紹介しています(笑)」


今は目の前のことで精いっぱいだが、新たな目標も少しずつ芽生えてきた。それはまだ遠い先のように思えるが、実は目の前のことだったりする。


「子供が生まれて、働き方も変わり、自分のお店を持つことにもなり、人生がガラッと変わっていく中で、やはり自分の中には完成形のイメージがあって。そのズレをいかに少なくするかが課題でもありますが、課題を解決した先には目指すべきことも明確ではないといけなくて。そんな、ぼんやり状態とはいいつつもただ言葉にできていないだけなんだと思います。理想を追いかけて、実現を目指して走り続けることが今の目標かなって思うんですけど…ほんと、一日があっという間で家事が手つかずで…あ~どうしようって(笑)」

これからの白井さんはもっと忙しくなる。
双子に囲まれながら、
仕事に対する考え方も、暮らし方も。

 

忙しいからこそ、時間の使い方も変わっていき、
1分、1秒も大切に感じながら、
新人だった頃のように改めて技術を磨いていく。

最近、年齢的に髪の毛が気になり始めまして、
似合わせ一丁お願いできますか?

 

白井佐和さん

新潟市出身。『POOL HAIR(閉店)』にて美容師の基礎技術を習得後、『フルール・デ・リズ』にてトップスタイリストに。私生活では双子を出産し、慌ただしい毎日を過ごしている。

yom
住所:新潟市中央区高志1-20-15
連絡先:025-367-2981
営業時間:9時~17時
定休日:日・月曜休
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