納得のパンを追い求め、ひたむきに作り続けることで自然の豊さであったり、食との向き合い方が整ったり、その先には命の尊さであったりと。パンを通じて五感が冴え渡り、パンを食べることで全身がエナジーで満たされ、パンがあるから自分がいる。佐護さんはお店には、職人であるが故に至る所にこだわりが見える。そして、緻密な事業計画を拝見すると、まさに職人気質である。

「自分で考えているパン作りが本当に事業として継続するのか何回もシミュレーションをして、考え直して、市場調査もしました。資金繰りだけでなく、パンの価格帯やコトバの表現まで。なかなかクセのあるパンですから、お客様に受け入れてもらえるのか不安はよぎりますよね!」

佐護さんは、東京や神奈川、北海道や長野など、全国各地のパン屋で修行を積み重ねてきた。そのほとんどが粉から製造をするオールスクラッチのパンで、職人としての基本的な技術や応用力も身に付けた。酵母に対する知識も広がっていき、パン業界の課題や社会的な問題意識にも理解していった。そして、自分が目指すパンが見えてきたところで独立・起業の計画に移行した。

「国産小麦を使ったパンは日本全体で販売されているパンの約4%しかない事実が分かり、パン好きなだけにそれはちょっとなぁ、と感じたことが始まりでした。小麦を作っている農家さんを応援したいと思いましたし、そもそも国産小麦の本当の美味しさをたくさんの人に知ってもらいたいですし。そんな思いがめぐりめぐって…ですね」

 

自分でレンガを積み上げた薪窯で焼くオーガニックパン

佐潟のほとりにあるお店「薪窯パン舎ほほ」は、そのロケーションが特徴。自然に包まれた環境は佐護さんのパン作りにいい影響を与えている。

「何もない空間に1個1個レンガを積み上げて薪窯を作っていたとき、休憩のタイミングで佐潟を見ながらのんびりすることもありました(笑)今まで修業していた場所に似たような雰囲気もあったので、いろいろなことが頭をよぎりそうでしたけどレンガ積みが大変で、それどころじゃないなと」

日々、いろいろなパン屋がオープンしている中、手作りの薪窯で焼いているお店はごくわずか。手間も時間もコストもかかる。しかし、佐護さんが目指すパンは、冒頭の通り国産小麦100%のオーガニックなパン。薪窯では遠赤外線効果が生まれ、短時間で外は香ばしく、中はしっとりもっちりとしたパンに焼き上がる。噛むほどに小麦の味がにじみ出てくるため、咀嚼力も強くなっていく。そして、安心安全がモットーのパンだからこそ子供から年配まで楽しめる。また、ハード系を好き好んで食べている人にとっては「これこれ!この酸味!」となるに違いない。

「まずはカンパーニュ、ブリオッシュ、焼き菓子からはじめます。できるだけたくさんの人に小麦の味を伝えたくてお求めやすい価格設定にしました。それにしてもこのパン、コストがすごいんですよ。オーガニックの国産小麦って強烈な価格で。そして薪もいい感じでして(泣)。最近になって新しい薪の仕入れ先を見つけたので初期の頃に比べるとなんとか維持できていますが、そもそも私が作るパンはコストかけてます(笑)」

佐護さんが使っている国産小麦は全国各地の小麦を調べた結果、北海道産が主軸になった。いずれも有機栽培であったり食の安全であったり、経営者の考え方や目指しているところが同じだからだ。

「農家さんを訪ねて栽培方法や土の強さとか、いろいろなお話を通して小麦の品質を理解して、その上でちゃんとパンを作らせてもらうというか。ちゃんと向き合って行かないと納得のパンが作れませんので、素材一つひとつ、自分の目で確かめるようにしています。阿賀野には合鴨農法をしている農家さんがいて、訪ねた際には『おおー』と感じました」

 

パンのある暮らしに国産小麦の美味しさを

2022年11月『薪窯パン舎ほほ』はオープンした。薪窯が完成してから怒涛の勢いで内装や外装を整えていった。奥さんが子育て専念中のためお店には佐護さんひとりで、パン作りだけでなく、陳列から販売、接客、そして未完成部分のお店の装飾などなど…やるコト山盛りだ!

「これです、これ!この充足感!あれこれやらなきゃいけないと思うほど楽しくなっていきます。追い求めていたパン屋を経営できますし、試行錯誤しながらパンに没頭できますし。この、焼き具合が日によって絶妙に変化する楽しさというか、ですよ。もちろん、お客様に喜ばれるために品質を安定させる必要性はありますが、この日によってわずかに変わる美味しさといいますか。どう伝えればいいかコトバが出てこないのですが、皆さんに食べていただきたいです(笑)」

お店に入ると大きな大きな手作りの薪窯に目を奪われるが、実は、道具やら内装やらパーツ一つ一つに並々ならぬこだわりがある。例えば、塗り壁は佐護さんが手作業で塗ったもの、ランプシェードは北海道にいる作家もの、パンが置かれている板は普通の板ではなく北海道のとあるエピソードが詰まったもの、生地を捏ねる箱は知人と一緒に作った檜のもの…とった具合だ!

「マニアックですよね(笑)お店の中にある大体の道具にストーリーがあります。こういったところも、接客でお伝えして行きたいところです」

 

 

美味しさを伝えることの難しさと、

お店を続けることの大変さと、

国産小麦の素晴らしさを発信する思い。

その眼差しから飽くなき挑戦に向かう、

佐護さんの決意をしっかりと感じます。

噛んでいくほどに豊かさを感じるのは、

しっかりとした余韻も楽しめるからでしょうか。

まるで味わい深い人生のように。

 

 

佐護裕太郎さん

広島市出身。東京や神奈川でオールスクラッチのパン製造をしたことがきっかけで目指すべきパンを見出し、北海道帯広市にあるオーガニックの小麦でつくる薪窯のパン屋『風土火水』にて修業を積み重ねる。独立開業準備中に第一子が誕生し、育児に仕事に大忙しの日々を過ごしている。

薪窯パン舎 ほほ
住所:新潟市西区赤塚1566
営業時間はインスタグラムにて
Instagram

 

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