無性に食べたくなるモノと言ったらなんだろうか。脳裏に焼き付いている味の記憶。その味にまつわるさまざまなエピソード。楽しいかったコト、辛かったコト、涙したり、笑ったり。喜怒哀楽の中心にあるのはいつもあのモノだった。そう!せきとりの唐揚げ(半身揚げ)である。

今や新潟を代表するグルメのひとつでもある半身唐揚げは、大体はカレー風味で提供されていて、お店によっては塩味、しょうゆ味、ガーリック味などいろいろな展開をしている。この半身唐揚げはどこが本場?本家?元祖?というルーツを探るコトも聖地巡礼的な楽しみ方もあるが、すでに新潟県内各地のいろいろなお店で提供されているため、ルーツを探るのというよりは今のこの唐揚げ事情=いろいろな味を楽しむコトに集中しよう!

「せきとりは新潟のしも町エリアにあって、昔々、養鶏場があったんですよ。その経営者が関さんというコトでせきとりなんです」

羽賀さんは、学生の頃からせきとりでアルバイトをしていた経歴を持ち(筆者もアルバイトしたことがあるんですねぇ)、デザイン系の専門学校卒業後は飲食の世界に入った。数々の店舗で自己研鑽しながら、とある縁で慣れ親しんできたせきとりに入社。新規店舗の立ち上げや通販部門の立ち上げと運営などに携わってきた。もちろん、せきとりを代表する4大メニュー=カレー粉をまぶして揚げる半身揚げ、絶妙なブレンドで蒸しあげる通称・蒸し、レバーやハツが刺された焼き鳥・赤、皮の程よいレアな感じの焼き加減が最高な焼き鳥・白、それぞれが芸術品(最上級の褒め言葉)クラスの仕上がりである。時々、時間を作っては新作に挑み、レバーパテなんかはまるでパークハイアットのリエット並みと言っても…オーバーな表現でした。すみません。

「仕事が安定するまで、あっち行ったりこっち行ったり、両親からは『どうなってるんだか!』と呆れられるコトもしばしば(笑)まぁ、そんな感じなんですよ、僕。雇用形態を聞かれるとそれはそれでねぇ、という感じなんですけど。お陰様で頑張っていますから、ふわふわしているなんて言われてもねぇ」

「マコト!しっかりしなさい!も〜、ど〜なってるんだか、うちの子は。心配で心配で。ほんとねぇ」

ご両親より

 

仲良し家族、仲睦まじい兄弟愛。だからこそ信頼へつながっていく

「結局のところ、そういうコトなんですよ。自分の中では意思を持って動いているんですが、周りからの目というのでしょうか。な〜んか頼りなさそうな眼差しですかねぇ。いやいや、そういうコトじゃなくて、僕は僕で貫きます!という志ですけど、そう見られていなくて。悲しい限りですが、僕は僕で必死なんです」

羽賀さんとは幼馴染の筆者であるため小学生の頃からよ〜くその人柄や性格は分かっているつもりである。人は成長によって人格も変わっていくはずではあるけれど、羽賀さんはずっとそのまま。良くも悪くもである。また、3兄弟の長男ということで、風当たりやら責任感やら背負う覚悟があると思いきや案外サッパリしていて、ノープラン!という調子。そんな長男の背中を見て育ってきた妹、弟からすると…これまた特に何も感じていないというワケではないけれど…おおらかである。要するに、育ちがいいのである。

「どう見ても良くないでしょ!(笑)」

 

「それって褒め言葉かしら。どう受け止めていいやら(笑)」

ご両親より

 

「ほんと、兄さま……。かける言葉もございません(笑)」

弟より

 

 時を同じくして、飲食業界に入った弟。調理や接客の技術はさすがで、まさに血筋。特に、縦横の人間関係においては秀逸していて、飲食業界以外にも幅広くその名は知れ渡っている。そんな弟は、兄より一足先に知人と新店舗立ち上げに関わり、今はウイスキー専門のバーのマスターとして活躍中だ。

「なぜかタイミングが重なり、弟が先に立ち上がった感じです。しかも、そのお店はせきとり東万代店の同じ並び!競合というよりはお店の属性が異なるので、いい意味で連携できると思いますし、一件目二件目って感じでの双方向の行き来で楽しんでいただきたいですねぇ。って勝手に思っていますけど、弟はどう思うか。いいと思うんだけどなぁ」

「先手必勝!です(笑)」

弟より

 

NEWせきとりはお客様に合わせてメニューも調理方法も変化していく

ブランドとして名が通っているせきとりを、自身の力でどうアピールをしていくか。全国的にも知られている以上、大それた動きはリスクとなる。とはいっても自身にとっては人生初の事業であるワケだし、独立開業なワケだから思うようにビジョンを描いていきたい気持ちもある。どの方向に歩んでいくかは、羽賀さんの見た目からは伝わってこないが(笑)、ちゃんと頭の中にあるというから、ある意味不思議である。

「それって誉め言葉的な(笑)考えていますって、あはは!もちろん、せきとりブランドもありますし、メニュー展開についてはちゃんと考えています。鶏料理を突き詰めるコト、鶏料理の幅広さを表現するコト、それでいて食べ飽きない鶏料理であるコト、そういった鶏料理を〝せきとり〟というブランドを活かしながら醸成していくと言いますか。はい?伝わっていない?そんなコトないですよね(笑)」

長年の勤務経験から、お客様の傾向や利用のサイクル、ここ最近の動向などは把握済であり、メニュー内容にしてもどんなモノが求められ、どういうカタチが最適なのかについてはしっかり握っているという。そんな思いはメニュー表を見ればよ~く伝わってくる。

「お店の近くに大きなホテルができたので旅行者向けに新潟名物をそろえたり、地元のみんなには奥深い鶏料理を展開したり、お一人様にはちょうどいいサイズ感の小鉢とか。旬なものはその日のおすすめ料理として提供します。ほら、このメニュー表にはデザイン専門学校だった経験が活かされているんですよ(笑)えっ、信じていないって?ほんとですって、ほら。見てみてくださいよ、メニュー表以外にSHOPカードも、のれんも、いろいろと私のデザイン力が発揮されているんですって(笑)」

どこまで自分の色を出すかはNEWせきとりがオープンしてから段階的に変化させていく予定だという。大きく変化させるとお客様が驚いてしまうし、変化させないコトはそれはそれで楽ではあるけれど独立起業における自身の中での達成感は薄れてしまう。歩み方はゆっくりだけれど、自分のお店であるコトを着実に噛み締めながら歩んでいく。

「蒸しひとつにしても、蒸し加減とか濃厚なスープのとろみ加減も均一ではなくてお客様の好みに合わせて変えていきたいですし、ご注文いただくメニューの傾向を感じながら新作を試してもらったり、今まで自分で考えてきたサービスのカタチを表現してくと、画一的なサービスだけでなく、お客様との距離感というかお店との空気感というか、あるじゃないですか。そういった関係性こそが自分の特徴であったり、やるべきコトなのかなって思います」

 

「ほんと、大丈夫なのかしら。そんなんでやっていけるのかしら」

ご両親より

 

変わり続けているからこそ「いつまでも変わらない味」がある

振り返ってみればいろいろあったけど、なんとか今日という日を迎えられた。そう、7月1日は自身にとって初めての起業した日=開業日。自分のしたいコト、描いているイメージはまだ旅の途中で、どんどんと「せきとり」というブランドにドライブがかかり、自身のネームバリューも、新しい道も作られていく。


「ブランドに甘んじるワケではありませんが、いつかオリジナルのブランドを作っていく必要があると感じていきますし、そういった志で経営するコトこそ夢でした。もっと自分の色を出しながら、もっと個性的に、たくさんの人に喜ばれるお店を築いていきたいです」

 

「ココまで来たら、もうやるしかないっ!みんなで応援してあげて!」

ご両親より

「僕は僕で必死です(笑)」

弟より

 

Instagramを運営するにしても、フライヤーを作るにしても、さすがデザイン専門学校にてデザインを習得していた結果なのか…美的感覚のバランスは秀逸。奥様の力も借りながら、スピーディーに作り上げていった。店名はそのままでメニューが改定された〝リニューアル〟だと、客観的に見れば新しいお店=独立開業としては見えにくい。だが、羽賀さんは自身初の独立であるし、資金調達も、取引業者との契約、諸手続きも、全部初。一歩一歩の行動に気合が入っている。


「フライヤーをたくさん持って、久しぶりになじみのお店へ足を運んで独立・起業をアピールしています!今までほとんど外出することがなかったので…やっぱり外に出るって楽しい!」

床の張替え、テーブル席のカスタム、店頭に張り出された大きな幕、そしてメニュー構成。常連でも気が付かないレベルの〝リニューアル〟は、羽賀さんらしい大きな変化であって、これは幼馴染の筆者だからこそわかるチャレンジングな取り組みとホスピタリティーであるコトが良く伝わってくる。

幼馴染だからこそ、仲間たちは気づいている。
その笑顔からは分からない彼なりの努力。
いろいろな積み重ねがあったけど、
なぜかその笑顔を見ると「大丈夫?」となる。

「あははははは!大丈夫だって」

大丈夫じゃないだろうなぁ。
気張っているんだろうなぁ。
そんな姿を見ていると、なんだか元気になるのは気のせいか。

「えーなになに?」

今日もいい一日になりそうだ。

 

羽賀亮さん

新潟市生まれ、新潟市育ち、生粋のしもっ子。デザイン専門学校を卒業後、飲食業界に入り、さまざまなお店にて基礎からマネジメントまで担当。新規事業に携わることもあり経験を積む。2023年、せきとり東万代店の譲渡を受け、独立・起業をする。

せきとり東万代店
新潟市中央区天明町3-16
025-247-0600
16時30分~22時※月曜休み
Instagram

 

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