街にはカフェがある。その街が歩んできた歴史と文化、人間関係の縮図が濃厚なまでに凝縮されていて、地元の人たちが集う場所だからこそ、暗黙のルールというか秩序がある。いろいろな世代にわたる常連がいるから社交場的な要素を感じられて、人とのつながりが実に密。仕事のコトや他愛もない話とか、旅人が次の目的地をリサーチしていたり、それぞれの時間を楽しんでいる。今ではパソコンを開いてオンラインミーティングだろうか。居心地の良さだけでなく、カフェには必ずと言っていいほど「ココにきたら食べておきたい逸品」があるから、みんなにオススメしたいけど、人には教えたくない的な思いもあったりする。そんなカフェ、筆者は好きでたまらない!
「毎日とは言わないですけど、お茶の一杯とか、帰宅前にちょっと1杯とか、気軽に立ち寄ってくれるカフェが理想です。カフェというと気張った感じ?本当は食堂っぽさをイメージしています。ちょっと微妙?そんなコトない?」
須藤さんは理美容専門学校卒業後、当然ながら美容師を目指していたワケで。紆余曲折あっていろいろな業界を経験。たまたまの縁で入社した会社が経営するカフェの店長になった。店長としての仕事はもちろん、スタッフの管理、商品開発、売上や原価、そして利益、マネジメントに関するポイントを理解しながら馴染みの人との話も盛り上がっていき、カフェの良さや経営に関する知識も身につけてきた。すると、次第に自分が理想に描くカフェはどんなスタイルなのか、日常営業をしながら独自のやりたいコト、目指すべきところが見えてきたという。
「こういう料理を出したい!お菓子も焼きたい!という思いもあります。なんですけど、カフェをするというコトは自分のしたいコトを全面に出すというよりはカフェに通ってくれる人たちのことを最優先にして、例えばリクエストがあればちゃんと応えたり、常連さんの顔を思い浮かべながらメニューを考えるってコトが大事だなって」
誰かのために作る料理とお菓子に私の思いを込めていく
身の周りに動いているコトを直感的に受け止めながら、その瞬間を切り取って思っているコトを全力で表現。正直でありたい、真っ直ぐでありたいから、感情をコントロールすることも絶妙なバランス感覚で保っている。
「周りから見た時の視点って、声の大きい人に引っ張られることってあるじゃないですか。良くも悪くもそういうコトって身近にあったりして。な〜んかおかしいなと思っても、今の時代、いつどこで何が起きるかって考えると油断できないですよね。疑いすぎ?そんなコトない?」
須藤さんの瞳が物語っている。誰に対してもリスペクトし、自分の思っているコトは一歩下がって状況を見ながら表現。本当は自分のコトが最優先ではあるけれど相手を立ててこそ理想に描いているカフェのカタチのようだ。
「いろいろなメニューを考えています。グルテンフリーっていいなぁとか、ヴィーガン向けとか。ペットも一緒に過ごせるカフェもステキ。世の中のトレンドワードがいろいろあったとしても、私の本音は違うところにあります。誰かのためにこのメニューがあるって、そういう文脈にmellowはあります」
物件が決まる前から試作は行われていて、米粉を使ったケーキとかクッキーといったお菓子からちょっとしたお惣菜も。Instagramにアップしてはフォロワーの反応を見たり、知人のお店でPOP-UPをやらせてもらったり、お客様からの直接的なコトバと表情の変化を浴びることで研ぎ澄まされていく。
「古町エリアで行われたHOLIDAYというイベントに参加した際、おかげさまで用意したお菓子が完売しました。お客様がどんな反応をするのか不安でしたが、インスタにアップされたり、その場で召し上がってくれたりして、すごく嬉しかったです。『お店はいつオープンするんですか?』とか『オープンしたら行きますね』なんて言われたりして感激!期待に応えられるように頑張らないと!」
右に行ったり、左に行ったり、動きながら最適化したカフェ計画
独立しようと思ってからオープンに至るまで3年かかった。遅かったのか順調だったのかは人それぞれだけど、須藤さんの心境はジェットコースターに乗ったような状況だっただろう。
「いろいろありますよね。中間管理職って感じなのかなぁ、マネジャーの宿命なのかなぁ。オーナー、店長、接客、調理、アシスタント、パート&アルバイト、それぞれの立場も分かりますし、どんな立ち居振る舞いが求められているのかも分かります。それでも、どうにもならないコトってありますよね」
物件について目星はついていたが、なかなか話が進まない。絞り込んでいた物件も計画を詰めていくについて家賃がネックとなった。設備資金や運転資金についても、何回もシミュレーションをしたが物件が定まらないと詰めていけない。とはいっても、独立の決意をしているワケだし、当然ながら自身の生活もあるからいつまでも長引かせられない。
「振り返ると、悩んでいた時というのはまだ起業するタイミングではなかったかもしれません。どうしよう…と思いつつも、着々と進めて、たくさんの人の話を聞いていると、なんと物件の話が舞い込んできました。この吉報で一気に開業準備が進んだと実感しています」
事業計画はようやく終盤を迎えた。安心安全な経営を第一に資金繰りを見直し、カフェの方向性やコンセプトなどもより磨きをかけて理想以上の仕上がりとなった。と同時に、カフェのロゴも完成し、インスタグラムのアカウントも開設。お店のオープンの目処がついたことで、開店準備は加速をした。そんな中、須藤さんは突然倒れた。
「体調不良で1週間くらい入院していました。こうして復活できましたし、何よりもお客様の声がきっかけでメンタル的にもすごく調子が良くなって。やっぱり私はこの仕事が好きだって」
須藤さんはお菓子の試作からカフェのスタイルに至るまで、mellowの活動をInstagramにアップしながらフォロワーや知人とのコミュニケーションを楽しんでいる。オープン1カ月前、新潟の街がコロナ以前のにぎわいを見せてきた。
ついに始まったmellowな時間と、私が追い求めていた場所
2023年6月28日、お店はグランドオープンをした。オープンまでの期間はイベント出展の機会があったり、試作において機械の不調があったりいろいろな出来事があった。すべての動きは今、この瞬間のため=オープン、にあったといっても過言ではない。
「晴れてのオープン。たくさんの人に助けられ、多くの人からうれしいコトバをかけてもらって、私はラッキーだなって思います。このロゴも、空間も、そして料理も、多くの人に笑顔を届けたいです。いろいろなシーンに、いろいろな人たちに、愛し続けてもらえるお店を目指して頑張ります」
須藤さんを街で見かけた時がありました。
まるでダンスのステップを踏んでいるように軽快で、
楽しさをかみしめるような笑顔。
「街で見かけたら声かけてくださいね!」
その向こう側を目指して毎日頑張っている姿が伝わってくる。
早くても遅くても、一歩進めばまた一歩前へ。
今日もmellowはココにある。
須藤久美子さん
新潟市出身。新潟理容美容専門学校卒業後、美容室へ入社。その後、同市のインテリアショップや喫茶店、カフェなどの勤務。17年ほど所属していたカフェでは店長としてマネジメントに従事。新商品開発やイベントも積極的に取り組んだ。2023年夏、念願だった自身のお店『kitchen mellow』をオープン。
kitchen mellow
新潟市中央区西堀通5-833
12:00~16:00、18:00~22:00※定休日や最新の営業時間はInstagramにて
Instagram
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