ごはんもいいけどパンもいい。いや、むしろパン好き。ちょっと小腹が…というときはミニサイズのパンがちょうどいい。気がつけば、まちにはいろいろなパン屋が続々とオープンしていて、その気軽さ(価格帯と外食感含め)ゆえに、ついつい立ち寄ってしまう。店名もフランス語や日本語など、いろいろなコトバがある。店名から想像するに、ハード系であったりオーガニック系であったり多種多様。本能的に食べ比べをしたくなる。

「美味しいパン屋さんが増えてきました。新潟も、私の地元の三条も。全国的に見ても実にたくさんのパン屋さんがありますし、ブームってことは流行の波を受ける可能性もあって、残念ながら閉めないといけないというお店もありますよね。すべてのお店が調子いいということはないですからね。職人の私は、美味しいパンを毎日一生懸命作ることに専念するのみです」

パン職人一筋の小栗さん。新しいお店ができれば足を運ぶ。同業だから気になってしまうこともあるが、どちらかといえばパンが好きだから、だと思う。競合の調査とか、市場動向の把握とか、そういった理由ではなく、美味しいパンを食べたい一心である。

「毎日でも、毎食でも、パンが食べたいなぁと思わせるものを作りたいですね。主食としても、おやつでも、パンが食べたい!と。となると、シンプルを極めることが重要で、五感のどの部分に印象付けるか考え抜いた結果としてのさっぱり感というか、余韻だと思うんですよ、余韻」

 

ホテルオークラ伝統のパン職人からワイナリーへ

小栗さんはホテルオークラのベーカリー部門に所属していた。代々引き継がれてきたホテルブレッドのレシピを忠実に再現し、緻密に計算されたグラム数で素材を仕込み、その日の湿度や気温も考えた焼き加減でモーニングに合わせて早朝から次々と焼いていく。ホテルでは様々なイベントも行われるため、大量に作ることもあるし、状況によっては少量の場合もある。ベーカリー部門ではパン以外にも焼き菓子も作ったりする。また、部門を管理するためのマネジメント力も必要であった。

「変わらない味を毎日提供することは、日々の変化にも敏感になって変えていくことが必要です。連泊しているお客様にアレ?なんて思われたらダメでして、ホテルオークラ伝統のおもてなしを表現しないといけません。大きな組織でしたから、学ぶことはたくさんありました」

約10年間所属していたホテルオークラ(神戸と新潟)では、パン職人の王道として技術を身につけた。作ること、管理すること、変化させること、といった、小栗さんのパン作り哲学の基礎を築いたと言える。パンへの思いは募る一方で、小栗さんは次なる場へ。天然酵母を使ったパンづくりと、お店を経営する最前線に立つために角田浜にあるワイナリー・カーブドッチ系列のパン屋である『まき小屋』に入った。

「刺激的ですねぇ。パン作りだけでなく、お店の経営に関しても。まちのパン屋さんがどんなパン作りをしていて、天然酵母と向き合うってどういうことなのか考えたり、楽しいですねぇ〜。お店の管理についても、何店舗か展開していましたので、各店舗の環境も客層も違うわけで、面白いですねぇ〜」

 

パン屋さんの資金調達と創業計画書

パン屋さんを開きたい。パン業界に入れば、いつか自分のお店を持つことが夢であったり、組織の一員として職人を極めたり、人それぞれの目標がある。ほとんどの人は自分のお店を持つことを描いているケースが多いが…どうしようか、と悩むポイントが資金調達だ。

「段取りが分からないです(笑)。何から始めればいいかって。ネット検索したり、知人に聞いたり、ビジネス書を読んだり、いろいろなノウハウに触れても本当にそれでいいのか不安になり。起業したい!という思いはあっても、どこから何をすればいいの?と」

そういうものである。正解はなく、起業の段取りに正しさもない。何かをすれば成功するのかと聞かれれば、そんなノウハウがあればみんなが同じように行動するわけで。業種だけでなく、その人それぞれの起業がある。唯一、成功へ近づくために言えることは、一歩踏み出すことだ。

「一番売りたいパン、つまり一番得意なパンを看板商品にしようと考えました。毎日食べ飽きない、というコンセプトで、食パンが第一。クロワッサン、サンドイッチ、惣菜パン、という風に考えていくと、全部看板商品にしたくなるんです。初めて入ったお店でオススメを聞くと…全部!というところありますよね?今はそういう状態です(笑)」

こんな話をしている中、小栗さんが持参したノートを見るとビッシリ書き込まれていることに気づく。パンの種類、素材、レシピ、売上と売上原価、日当たりの目標売上と客単価、初年度から3年、5年後の設計まで。できるところから書き始めたと言うが、生産管理をしていた経験から、体が自然に動いているんだろう。あとは、ノートに書かれたことを俯瞰かつ客観的に見て、編集すればいい。そのプロセスにおいてマーケティング要素や戦略面で付け加えれば事業計画書の完成だ。

「それでも物事は起業へ向けて進んでいるのか、不安です。時間だけが過ぎていく。起業って遠い先にあるのかなって感じます。しかし、人生っていつ何が起きるか分からないですよね。突然、話は急に進むんですよ」

 

パンに人生を映しながらコンセプトを決める

角田山の麓に住んでいた小栗さんは、春は桜が舞い、夏は青々とした角田山を眺め、秋は紅葉、冬は雪景色と、このロケーションを生かしたお店をイメージして物件を探してきた。理想の地を見つけたが、細部において条件が合わず見送った。物件はご縁、でもありタイミングでもある。小栗さんは実家のある三条に帰ったことがきっかけで急展開した。
「実家のある三条から離れた土地で店舗兼住宅を考えていましたが、年末年始に帰省したことがきっかけで戻ろうかなと。やはり親の存在は大きいですよ。親だけでなく親族も、私にとって大切ですから」


角田に比べて三条の街中には老舗から個性的なお店まで競合はたくさんある。小栗さんの実家近くにも、地元に愛されている名店がある。この環境でいかに共存できるかがポイントで、入念なマーケティングも求められるが、小栗さんの頭の中にはすでにシミュレーションされていた。
「経験を生かしたレシピを軸に、スタンダードなものから惣菜系、焼き菓子まで展開していきたいです。特にバゲット。プレーンもいいし、サンドにしてもいい。天然酵母を使ったハード系も作りたいですね。毎日食べても飽きないパンを提供することをコンセプトに考えています」


パンの方向性が見えてきたところで、今度は経営に関してのノウハウを吸収していく。特に数字に関して細かく向き合っていく。
「シミュレーションをしていく中でどの数字が大切か自分なりの考えを持ちながら向き合っていますが、果たしてそれでいいのか?と言われると自信がないです。いろいろな人に聞いて、どういった数字の動きに気をつけるか学んでいます。季節も影響しますから、年間を通じて把握しないと行けませんよね。不安を感じつつも、そういった変化を楽しんでいきたいです」

 

 

バゲット、ホテルブレッド、クロワッサン、カンパーニュ。

子供の頃の思い出と、大人になってからの感謝の気持ち、

小栗さんの作るパンには、この2つの心が込められている。

噛み締めるほど感じるその思い、

明日もパンにしようか。

 

 

小栗豊尚さん

『ホテルオークラ神戸』『ホテルオークラ新潟』でベーカリー部門に所属。オークラ流のパン仕込みとレシピを学ぶ。その後、角田浜にある『まき小屋』にて天然酵母のパン作りに携わり、2023年に夢であった自身のパン屋『Boulangerie Marron’A』をオープン。

Boulangerie Marron’A
三条市東三条2-11-18
店舗情報はInstagramにて
Instagram

 

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