仕組み化とコスト効率、スピードとチーム連携、そして、論理的かつ正確に。大量調理をする現場では厳格さが求められ、組織的な動きも求められる。代々受け継がれているレシピを守りつつも、時代に合わせて少しだけ変化を加える。パティシエに求められるレベルは技術的にも心理的にも高い。

「今まで職人畑でしたから、技術力をいかに高めていくか自分を追い詰めてきたかもしれません」

柳通さんの繊細さはスケッチブックを見ればよく分かる。スイーツのイラストがたくさん描かれていて、モノクロから色付けされたものまで多種多様。頭の中でイメージを描きながら筆が走るという。

「実は、イラストレーターを目指していたんですよ(笑)ですので、わりとスラスラと描けます。頭の中だけで完結するのではなくて、こうして絵にすることで見えてくることってあるんですよ」

レシピを見れば完成形がどうなるのか想像できるもの。絵を描くことによってその完成形も柔軟性を持つという。

「昔からこうして新商品開発とかデコレーションとか、あらかじめバリエーションの展開を考えておけば、調理中の変化にも対応できますよね。このイラストの技術、私はもっぱら、バースデーケーキの似顔絵プレートに活かされています(笑)」

作品を見ていると、確かに似ています!

 

方向性に違和感があったら、すぐ軌道修正することが大切

独立開業を考えた時、パッと浮かんだのは健康的な食材を使ったお菓子屋さんだった。栄養士の資格を持つ奥様・英里子さんが病院や介護施設にて献立作成や調理をしていたこともあり“健康的に、楽しく、美味しく、みんなで喜びを分かち合うお菓子づくり”をパーパスに掲げていた。夫婦で話し合って出したコトであったが、試作を重ねていく中で原料価格の値上げやさまざまな意見を聞いていくうちにもう一度深く考え、お店の方向性を修正した。

「息子に試食してもらいつつ妻と話をしていると何か違和感があったというか、このまま進んでいいのかなって感じるようになってきたんです。そこで、改めて自分自身がやりたかったコトとか、伝えたいコトとか、一方でお客様に求められるコトって何だろうな、と考えました」

たどり着いたのは伝統菓子だった。今まで積み重ねてきた経験を振り返ると、それは必然でもあった。もちろん、今まで考えてきた健康路線も取り入れた伝統菓子である。

「冷静になって考えてみて、アレ、なんか違うよなって。ふたりで話をしていて何か無理をしていたというか、コトバと作ろうとしているモノのズレが生じていたかもしれません。そういうコトなんだ!と分かりました」

この若干のベクトルの修正によって柳通りさんの活動は一気に加速していく。メニュー考案、試作、リサーチ、マーケティングといった行動の回転速度が高まっていき、完成度が研ぎ澄まされていった。

「フランス菓子をベースに、アメリカやイギリスの伝統菓子をアレンジしました。マフィンとか、ブラウニーを看板商品として掲げたいですね。そうそう、お店のある環境とか地域柄を生かした生菓子や焼菓子もたくさん作りますよ」

 

見ているだけでも気分がアガるAlleyのお菓子たち

試作の段階で感じたのは、柳通さんの経験そのままの味であるコト。レシピに忠実で、甘味と素材のメリハリのあるバランスがあり、余韻においてもスッと消えるわけでもなく〝もう一口〟と感じさせる要素がある。フォルムも独特で、ディテールにとことん向き合っている様相である。

「言われないと気がついてもらえない感じです?それだとちょっと困っちゃうので、気づいてもらえるように改良いたします!」

Alleyで提供しているお菓子たちを紹介しましょう。

︎ いちじくとクリームチーズマフィン 

フォンダンショコラマフィン

クランブルブルーベリーチーズマフィン

ガナッシュブラウニー

バスクチーズケーキ

 

お菓子のレシピも自身の行動計画も、その緻密さがあれば何でも出来る

事業計画を考えるとき、職人らしさが顕著に表れていた。販売や情報戦略といったマーケティング活動において、一語一句に技=ワザが込められている。一方で、良くも悪くも職人肌のため、指摘に対しての柔軟性はまだまだのところ。そのため、いい意味で緊張ゆえに硬さを感じさせる表現になっている。

「ツッコミを受けるとオロオロとしてしまいます(笑)お客様にはどんなサービスが喜ばれるのか、もう1回来店してもらうために何をすればいいのか、SNSにはどんな内容を投稿すればいいのか…考えるほど迷ってしまって読み返して恥ずかしい感じに仕上がってしまうというか(笑)この状態、上手く伝わりますかねぇ?」

事業計画書の各項目、一つひとつの表現において深掘りした。いろいろな角度から指摘されたとしてもちゃんと答えられるように準備物もたくさん。お店がすでにオープンしている状況を想定して、どんなサービスを受けたらお客様は喜んでくれるのか何度もシミュレーションをした。特に、どうやったらお店を知ってもらえるか認知度向上への取り組みは強化。あの手この手と、工夫が込められている。

「製造・販売・接客・納品・仕入れ・管理など、しばらくは二人で切り盛りするのでいかに効率よく経営していくかがポイントだと思っています。えっ?みんな一人とか二人でしているって?そ、そ、そうなんですか?本当にできるんだろうかと、すでに不安です」そんな話をしながら、気づいたら立派な事業計画書が完成していた。

 

〝今日という日のために〟Alleyのお菓子は輝きを増していく

お店の設計、資金調達へ向けた入念な計画、中長期を見据えた展開、商品構成、エリアマーケティング、試食とレビューによる微調整、今までの準備期間を振り返ると、大変なコトも辛かったコトも全部いい思い出に変わっていた。修業時代に感じていた組織に属する自分の中のモヤモヤも、あの時を過ごしたから今があると思えてきた(そんなコトないかもしれませんが)。すべてはオープン日、2023年8月29日のために。

「泣けてきますよね、ホント。自分で決めたコトですから、前を向いて、お客様のために毎日喜ばれるお菓子を作るって決めたんですから」(恵介さん)

 

一生懸命な姿は近所の人たちにも伝わっていき、町内会みんなで応援しているムードになってきた。張り紙もしてくれたり、近所の期待感も日に日に増していって、まるで地域みんなで祝福をしているような高揚感!いい感じだ。

「おいしさの基準ってなんだろうって、いつも向き合っています。どのお菓子屋さんもレベルが高いし、サービスもいいし、評判もいい。そんな中で私たちらしさって何か、真剣に向き合って、考えに考えて行き着いた場所がAlley Birthday Bake&Cakesです」(英里子さん)

 

試食を頼まれて何回か味わっていくうちに、

夫婦の人柄がお菓子を通じて伝わってきた。

あ、そういうコトなんだって気がついた。

「また試食してくれませんか?新作を作ったんですよ」

あ、また味が変わった。職人の仕事ってこう磨かれていくのか。

柳通さんの優しさはひとつひとつの仕草に出ていて、

積み重ねられてきた職人の仕事は手の表情に、

あくなき挑戦を続ける眼差しにはしっかりとした意志を感じさせる。

「毎日が新鮮、毎日が楽しみです」

 

柳通恵介さん

新潟市出身、株式会社ジョアン・ジャポンではミニクロワッサン製造1年とケーキ製造2年を経験。その後、ANAクラウンプラザホテル新潟では、スイーツ製造の中心メンバーとして動きつつ新商品開発も担当、令和2年にはベーカリーシェフに就任した。2023年「Alley Birthday Bake&Cakes」オープン。

Alley Birthday Bake&Cakes
新潟市東区秋葉通3-13-26
11時~17時30分※なくなり次第終了、水・木曜休
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