「珍しいでしょ、このロケーション。真横に線路が走っていて、ちょっと非日常な感じしません?えっ、カントリーらしい?それって田舎ってコトでしょ!」

カフェといったら商店街や駅周辺といった商業エリアにあるけれど、住宅地にあるお店といったら…美容室とかスナックとかずっと商売をしているイメージだろうか。カフェ開業となると当然ながら立地を考える。だけど、バリスタの石原さんが立つカフェ『Banbi』は、ほんと住宅地のど真ん中にある!

「このエリアは地域ならではの風習がずっと受け継がれています。人と人のつながりが強いことも特徴的ですし、独特な距離感ってあるじゃないですか。市町村単位ではなくて、町内会単位というかね。で、たまたまのタイミングでカフェを開くコトになったんですけど、地域の人に聞いたら大喜びなの。みんな、お茶を楽しみながら過ごせる場所がないかなって。やはり運命ですよね、これは!」

燕エリアのカフェは老舗や若手のお店が数軒のみで、車がないと行けないとか、気軽に歩いていくには大変。そのため、コーヒーを楽しむなら…コンビニのコーヒーとかスーパーにあるインスタントコーヒーだろうか。そして、焙煎したての淹れたてコーヒーを飲める環境はあまりない。だからこそ、石原さんはこの地を選び、お年寄りにもスペシャリティーコーヒーを楽しんでもらい、ラテアートを見て笑顔になってもらう、そういうシーンを暮らしの中のひとつとして提供して、人と人との距離をコーヒーの香りでいい状態に保つコトにコミットしてコーヒー文化を脈々と育んでいきたい、という思いで開業に至ったはずだ!

「そんな大そうな考えではございません!」

あ、石原さん、ちょっと妄想入ったみたいですみません!

「バリスタになってカフェをしたい気持ちはずっとあったんですよ」

 

想いを原動力に日々動き、日々話し、日々向き合っていく

「知人友人のカフェの創業は見てきましたが、今度は自分の番だって思うと、何から動けばいいのかわからなくて。知っているようで知らないものですね」

漠然としていて、何から準備すればいいか不安で、どう動けばいいのか分からない。初めての創業はみんな同じような状態からスタートする。ネットに書いてあることも一般的すぎるというか、自分に当てはまるのかまったく分からない。次第に、分からないことが分からない!って感じに陥ってしまう。筆者と出会った一言目が「どうしましょう〜、何から考えればいいでしょうか…」であったため、開業までの話を整理しながら話していった。

① スケジュール
② ToDoリスト
③ 資金調達は必要かどうか
④ 役所が提供している創業向け支援
⑤ 創業計画書
⑥ 店舗予定地周辺の調査
⑦ メニュー案
⑧ コーヒー店の調査
⑨ ポートフォリオ
⑩ カフェの先輩、バリスタの先輩に話を聞く

「スケジュールを組んでいくと意外と時間がないことが分かりました。やらないといけないコトが見えてきたため、優先順位をつけながら着実に進めるようにしました」

とプロレスの神(私の中で)のコトバに〝迷わず行けよ、行けば分かるさ〟がある。石原さんもそんな感じと言っていいだろうか。分からないからこそ行動してみて初めて知る。足を動かす、汗をかくからこそ見えてくることが数多くあった。

「短い期間でいろいろな人と会って、たくさんのコトを学べて、理解して。とっても勉強になっています!まだ計画段階なのに、オープン日を聞いてくれたり、コーヒー、スイーツやラテアートなど、質問してくれる人もいて感激です。聞くコトって恥ずかしい気持ちもありましたが、こうした行動が明日のお客様につながっているんだなって、肌で感じました」

ま・さ・に!行けば分かるさ!です。

 

コーヒーとラテアートの美味しさと素晴らしさを伝えるために

「美味しいコーヒーって、飲んでいる時間も美味しくなりますよね。飲んだ後もしばらくいい雰囲気で続きますし、なんだか元気が出るって感じしませんか?」

成分的な話を始めると結構なボリュームになるけれど、美味しいモノはいろいろと美味しくなる、ものである。石原さんが提供するコーヒーはバリスタだけあって、豆の選別から挽き方、淹れ方に至るまでプロらしく、行き届いたもてなしで魅せてくれる。ラテアートなんて驚き。カップを持ちすらすらと描いていくから見とれてしまう。誰でも出来そうにはまったく思えないアートは飲むのが惜しいくらいだ。

「コーヒー需要が高い地域は〝スペシャリティーコーヒー〟と言えばどんなコーヒーなのか想像できる人が多いかもしれません。『Banbi』は燕の住宅街にひっそりと立っていますから、スペシャリティーコーヒーと言われると…?ってなりますよね。スペシャリティーコーヒーを提供していけばこの味が浸透していきますし、広義にとらえればコーヒー文化を浸透させられるチャンス。ですでの『Banbi』のコーヒーは、このスペシャリティーコーヒーが基本。とはいっても、価格が高い訳でもなく、毎日通ってもらえるプライシングにしているのですが…いかがでしょうか」

不安…この装い、この量、この品質で、この価格。コーヒーだけでなく、ラテも同様に不安。利益は一体残るのか…赤字覚悟なのか…石原さん!大丈夫ですかー!

「今も悩んでいますよ。都会のお店だったら強気な値段を付けて勝負するところですが、場所が場所だけに、というよりは、この地域の多くの人たちにスペシャリティーコーヒーの美味しさやラテアートの楽しさを知ってもらいたいですし、美味しいなぁって言っていただけるためには、この地に合った価格設定ではないといけません。皆さんに通ってもらえるからこそ私のお店『Banbi』の存在意義があるわけで、まさにこの店名の通り、みんなで育っていく思いでこういうお店にしているんです」

お菓子も同じく!である。

「ショーケースに並ぶ生菓子、焼菓子は新潟市内のイタリア料理店でシェフ&パティシエをしている息子が作ってます。もちろん、私も作っていますよ!お飲み物に合うスイーツ、季節の果物を使ったり、バエるモノだったり(笑)」

試作段階でバスクチーズケーキ、シフォンケーキを試食させてもらった。この包容力のある味、程よく加減された絶妙なバランス。で、金額を見ると…ちょっとホッとする価格設定だ。

「食材費がねぇ~(苦笑)」

 

Banbiは地元と一緒に歩み、リズミカルに飛び跳ねていく

2024年5月5日、念願のお店がグランドオープン。その数日前にお店に訪れた。久々に会った石原さんはオープン直前の慌ただしさと、これから始まる自身のカフェへの期待感が交錯する、ちょっと複雑な表情をしていた。

「身近な人たちに声をかけてプレオープンをしたんですが、やってみないと分からないコトがたくさんあって驚きました。駐車スペースとか、テラス部分とか、店内の家具装飾品の置き場所とか。厨房内も、もっとこうすれば良かったなぁって感じたり。とは言うものの、満足度は高いですよ!私の好きな要素がたくさん詰まっていますから!それにしてもバタバタ!時間がないです!アレもコレも、やらなきゃいけないことがたくさん!あの、時間がたっぷりあった時にやっておけば良かったです(泣)」

頭の中でイメージしていたけれど、実際となると想像と異なる部分がある。そして、お客さんの動きが加わると、お店の使われ方も見えてきて改善すべきところも明確になる。日々、向き合うことでよりハイレベル、ハイクオリティーなサービスに研ぎ澄ましていくコトこと、カフェの醍醐味!だろう。

「DIYでなんとかできるなって思っても、実際はプロに頼んだほうが良かったなって思うこともありますし(笑)ほんと、たくさんの人たちに協力いただきながらお店ってできるんだなって。感謝の気持ちでいっぱいです」

Banbiのスペシャリティーコーヒーはバリスタの先輩のお店でブレンドされた特別仕様。地元の人たちの顔を思い浮かべながら味を見極めた一杯は、酸味が弱く、ややスモーキーさを強めにしつつも、澄んだほろ苦さが余韻に残る。コーヒーと共に食べさせてもらったプリンは、プリン好きにはたまらないエッジ(プリンの角です。あの、角!)の硬さがあって、独特な柔らかさと濃厚な味が印象的。「自慢の仕上がりです」と言うだけあり、プリン好きの私としては大きなボウルで食べたいくらい(笑)だ。

 

ところで…電車っていつ通るんですか?と聞くと、1時間に数本だという。

のんびりと、ガタンゴトンと走る姿を見ながらコーヒーを楽しむ。

そんな心和むシーンなのかと思いきや!

電車は猛烈なスピードで走っていった(笑)

「そうなんです、思った以上の速さで(汗)」

世の中はやってみないと分からないコトがたくさんある。

なんだか毎日が美味しくなりそうだ。

 

石原薫さん

15年ほどスイミングスクールのコーチやマネジメントに従事した後、コーヒーの仕事がしたいとコーヒー業界へ転職。大手チェーン店のほか専門店で基礎から応用まで技術とサービスを習得。バリスタとしてお客様から愛される存在になった。とあるきっかけで、念願だった自身の店『Banbi』を2024年にオープン。地域密着型とはいいつつも、いろいろなところからお客様が訪れるお店に。

Banbi latteとcoffee
燕市吉田西太田1403-1
12時~20時 火・水曜休 駐車場7台
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