「ノリオさんですよね?」「あ、ノリオさんですね」「そうそう、ノリオさん!」「ノリオー」という感じで、知人に貝瀬さんの話をすると大体はこんな返しになる。貝瀬さん、ではなく、ノリオさん。もしくはノリ。愛嬌があるといえば…ある方だと感じるけれど、マスクをしているとコワモテにも見えたりして(笑)歩き方とか笑顔になった時の表情とかみていると、人柄の良さ、優しさが伝わってくる。

「それってどんな歩き方なんですか!(笑)」

貝瀬さんは食の世界=ラーメン業界に入って約17年、働き続けるほど自分のラーメン店を持ちたい気持ちが強くなり、どのタイミングで独立開業するかいいか思い悩んでいた。多くの人からラーメン作りを学ぼうと、意図的に勤務先のラーメン店を変え、スープの仕込み、食材、麺、仕上げといった丼一杯に表現されたラーメンと向き合い、厨房では職人としての気配り目配りを体感し、接客ではリピートしてもらうためのコツを掴んだ。それほどの〝ラーメン愛〟のあるノリオさん、である。

「好きなんですね、ラーメン。麺をすすり、スープをぐいっと飲み、両手でどんぶりを持って、はい!ごちそうさま!みんな笑顔になるじゃないですか。この丼に表現された世界って、やはりラーメン好きですよ、本当に」

いろいろな店舗を渡り歩いただけに、ラーメンの傾向=お店の視点とお客様の視点も見えてきたコトがある。それは経営=マネジメントとしては大切な〝顧客視点〟での美味しいツボ。本質を見極めながらも流行を取り入れつつ、常に変化させることで定番は定番として、流行は流行のある味として、それぞれを確立させる。その見極め方こそがラーメン愛のある貝瀬さん、である。

「お店の色ってありますよね。ラーメン店としての特徴が!いつも変わらぬ味ってよく言いますけど、変わらないように感じてもらえるように変えているコトがほとんどで、例えば『子供の頃に食べた時と同じ味』って、そんなコトないでしょ!って思いません?美味しいものを食べていれば、大人になっていけば、味覚も経験も豊かになりますから、変わらない味と言いつつも、職人はすごく研究熱心に、改良し続けているんだろうなって」

 

ユーモアのある視点と意外性は、いろいろなラーメンを学んだ結晶

これだけの経験と味覚、リサーチを重ねてきた貝瀬さん。では一体、どんなラーメンを提供するのか気になるところ。Wスープとか淡麗系とか、はたまたガッツリ山盛りなのか…。

「苗字に〝貝〟があるので、貝ダシのラーメンです」

筆者の憧れでもある某メディアを運用している大先輩も、苗字から一文字とって媒体名にしていたコトを思い出した。いや、それだけじゃない!意外と名前ではなくて苗字が由来になっているコトが多いじゃないか!ちらっと視点を変えるとクリエイティブ系によくあるユーモアあふれるキャッチコピー(相当練っているため、オマージュを込めての、いい意味でユーモアです!)っぽさも感じるのは気のせいか。これもまた運命だろう。

「ただ、貝がメインとなるとすごく原価がかかってしまうんです。国内産の貝だけを使うなんて到底できませんし、海外から仕入れたものにするにしても業者を調べないといけません。ただ、貝ダシ純度100%だと理想のラーメンにはならない。ベースが貝であっても、お客様に満足していただくには貝ダシ+αが必要。ここでの文脈は足し算というよりは掛け算という感じです」

貝だけに限った話ではないが、スープを決める時、職人の頭の中にはどんなコトが浮かんでいるのか。昔、ラーメン一筋の職人に聞いたコトがある。単にスープだけだとダシの感じのみで、ここにタレとか麺とか具材が合わさって一杯のラーメンが完成、となるワケだけど、このスープだけでどこまでいめーじが膨らむのかというと…スープから完成系まで飛躍してイメージできるという!このスープなら、タレはこういう感じで麺は太か細か、で、具材はコレでといった具合に。

「大体、想像つきますねぇ。だって、ラーメン業界にずっといますから!」

サイドメニューにも発想の面白さがある。

「餃子もいいと思いましたが!ん〜だったらワンタンがいいかなって。麺と一緒に入れるのって想像つきますよね。だったら焼ワンタンとか揚ワンタンとか、アレンジすると面白いかなって。ワンタンってありそうでないですよね?どうです、この着眼点!」

いいですねぇ〜このカリカリ感!ダシも効いてます!あ、貝瀬さん、まんざらでもない顔してる!

「え、えぇ〜。そうなんです」

 

ルーツを辿ると見えてくる、貝瀬さんのマジな〝ラーメン愛〟

「学生時代、我聞というラーメン店でアルバイトをしたことがきっかけです」

たまたま求人募集がお店の前に貼られていて、そのままの勢いで応募。ラーメン好きだったため、仕事をするほどのめり込んでいった。

「父親のラーメン好きが影響しているかもしれませんね。よく、人気店とか中国料理店とか、とにかく美味しい麺を食べさせてもらった記憶があります。生活の中に違和感なく麺文化があって、すごく身近な存在でした」

高校卒業後に働きたいと思っていた貝瀬さん。卒業前にして外仕事の会社に内定は出ていた。

「当時の店長から『卒業したらどうするんだ?』って気にかけてくれて。とはいっても内定いただいていたので、ひとまず1年間は頑張ろうと思って。その間もお店に行くと気にしてくれていて、嬉しかったですね」

その後、転職し、ラーメン業界へ。いろいろな味を試したり、食べ歩きをしたり、お店巡りもしたという。

「家系、トンコツ系、Wスープ系など、特にコレが好き、という偏りはなくて。とにかく試しましたね。山形とか群馬とか、隣接県へリサーチを兼ねて…というよりは、食べるコトが好きなのでお出かけの目的だったりしますね(笑)」

だが、ただ食べるコトが大好きで何店舗も行っているワケではなく、気になるコトはちゃんと観察・調査していたという。

「ラーメン店は接客の時間が短いですし、タッチポイントも数少ないですよね。この瞬間をどう活かしていくのか難しいところです」

お店を訪れた日は新人スタッフを出迎えた日だった。不安げな表情で入店してくるスタッフの顔を見ながら、貝瀬さんは明るく振る舞う。元気になる、元気が出るお店づくりを目指すためにコミュニケーションは欠かせない。

「信頼関係が大切ですよね」

貝瀬さん、その笑顔なら(笑)大丈夫でしょう!

 

今日も明日も、貝瀬さんの顔を見たら気持ちが明るく晴れていく

「いらっしゃいませ!」と元気な声が聞こえてくる。早くも行列ができ、ラーメン好きだけでなく近所の人も、知人・友人、先輩後輩、関係者もたくさんお店を訪ねてくる。オープン前にはWEBマガジンにも掲載され、期待度も高かったコトだろう。当初、2024年6月12日オープンではあったが…諸事業があり6月22日に変更した。

「追いつかなかったです!申し訳ありません」

それもそのはず、当初オープンの12日ちょい前に訪問すると、お店はまさに準備真っ只中であった。

「もう〜1人でいろいろとやるって大変ですね。まずは厨房の油汚れ掃除!そして動線を考えた配置!内外装の整備!備品、什器も続々と納品され、いざ試作!と思ったら、全然整理が追いつかない!」

居抜き物件とはいえ老朽化している機材も少なくなく、買い替えたり、ピッカピカに磨いたり、状態を業者の人に見てもらったりした。買い替えないといけないモノも多少はあったが、想定外のケースはあまりなかったという。

「想定外といえば、私はまったくパソコンができないコト(笑)パソコンに詳しい大工さんに初期設定してもらいました!その後、パソコンは開いていませんが(泣)」

スマホはすいすいと操作しているので大丈夫と思ったけれど、パソコンはほんと苦手のご様子。ただ、券売機やPOPなど、お店の経営にはパソコンと向き合わないといけないワケで…。

「皆さん、どうやって使えるようになっているんでしょうか。誰かに教えてもらっているのかなぁ。そんな時間がなくて…どうしよう!と思いつつも、まっいっか!なんとかなるかって楽観的です」

6月になってからアルバイトスタッフがすでにお店へ。準備も一気に加速する。さぁ見ていただきましょう!

年齢不詳で生活の匂いがほぼ表に出ていない謎の貝瀬さん。

業界では知名度も高く、仲間からも慕われ、

話すたびに謎が明らかになっていく。

「なんも出ないっすよ(笑)」

仕込み、麺茹で、盛り付けに仕上げと…

一杯のラーメンに込められた想いは強い。

「お客様の笑顔のために、この一杯を捧げます!」

働きがい、生きがい、爽快、快晴、か〜いかいかい、と

貝だけでこんなにポジティブになれるなんて!

「ダジャレですねぇ(笑)」

 

貝瀬紀男さん

新潟市出身。新潟のラーメン店にて基礎を学び、その後、何店舗か繁盛店を学び歩きつつも、自分と向き合いながら究極の一杯を目指して日々研究・日々研鑽。愛車はハイラックスサーフ。好きな食べ物は貝。

らぁ麺 貝晴
新潟市西区小針7-14-7
11時~15時、17時~21時 不定休 駐車場10台ほど
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