共感できる価値観とは何か。心から信頼されるためにはどうすればいいか…。めまぐるしい速さで、一気に、大量なデータ=コトバが発信されていき、デジタルとリアルがシームレスになった今、良くも悪くも人と人との付き合い方が変わってきた。人種、国、文化、宗教など、世界と日本との隔たりもなくなり、コミュニケーション領域も爆発的に広がっている。そんな時代にInstagramを楽しんでいる美容師の吉沢さんの運用しているアカウントでのフォロワー数合算が3万人。さ・ん・ま・ん人だ!
フォロワー3万人の光と影
「子育て日記を綴っていたら、こんなことになったんです。気がついたらこんなことになっていて!このフォロワー数が何を意味しているかって? すごいとか、ビジネスになるとか、そういう方向性では考えてなく、ただただ楽しいからインスタしてるって感じです。私の性格上、ビジネスって無理そうでしょ?えっ、その通りって(笑)お願いしますよぉ〜」
3万人もいれば1つの投稿に対しての受け止められ方も3万通りある。ほとんどが共感してくれるフォロワーが多いが、なかにはネガティブ系もいる。
「皮肉めいたり、あからさまな批判をされたり…そう言ったコメントを受けた最初の頃は相当凹みました。とあるファッション小物を投稿した時なんて、まるで広告?みたいなリアクションもあって、いやいやお金もらっていませんからって。好きでやっていたことが、なんでそんなことを言われなきゃいけないんだろうって。もうインスタはやめよか、と思ったこともありました。ですが、とあるラインを超えたところで気にしなくなったというか、心の中で反応しなくなって。これ、乗り越えたって感じ?違いますかね?
そばで見守っていたご主人の浩二さんは、そんな姿を心配そうに見ていたが…。
浩二さん「これはビジネスになる!生かした方がいい!間違いないです!」
麻貴さん「そんなこと言われてもねぇ」
仲睦まじいご夫婦である。
角田浜エリアに移住増!ポテンシャルを感じる環境
吉沢夫妻は子育てに重きを置いたライフスタイルと独特の人生観にある。浩二さんはフォトグラファーとして20年以上活動。麻貴さんは美容師として多くの顧客を持つスタイリストで、出産を機に一線から退いていた。ふたりはしばらく新潟市内に住んでいたが、いろいろな思いもあって都市部から車で30分ほどの角田浜エリアに引っ越し。まちに比べれば不便なことの方が多いけど、不便さよりも角田で暮らして得られる幸福感の方がまさっていた。
浩二さん「ポテンシャルがあるんですよ、角田浜エリアには。僕たちが移住して知人友人にこの魅力を語ったら、3家族も角田浜に移住してきたほどです」
麻貴さん「海があって、山があって、自然に囲まれている。まちに用事があれば車で30分ほど走れば新潟市の中心部に着きます。この絶妙に離れた感じが、子育てにとっても良い環境であると思っています」
吉沢家が暮らす角田浜エリアの隣には四ツ郷屋エリアがある。どちらも高齢化していて、若者の姿も限りなく少ない。そんなエリアに移住した吉沢家にはこんな思いがある。
浩二さん「地元のルールを守りながら、ゆっくりと変化させていくことができたらいいですね。『サロン・ド・maki』がきっかけで人の動きも交流も生まれて、この魅力を伝えていきたいと思います」
麻貴さん「ブランディングって何?なんですけど(笑)ガツガツ稼ぐ!というサロンではなくて、お客様と私の思う美意識というか感覚というか。なかなか言葉にはできない美しさというか、ね。わかんない!」
あっちこっちと脇道に逸れつつも進んでる!?
のらりくらりとマイペースに事業を進めるにしても、オープン日を決めるとそういうワケにもいかなかったりする。関わる人が多くなればなるほど、考えたり、選んだり、打ち合わせをしたり、スケジュールにいろいろと予定が入っていく。いつまでに、何を決めるか、ということだ。
麻貴さん「子育ての時間はキープしたいので、夫婦での働き方、時間の使い方を考えて、どんなお店にしようか描いていきました。これがまた大変。こんなお店にしたいなと思っても、裏を返せばどうやってお客さんに来てもらうのか、と違った目線で考えなきゃいけない。イメージできても、コトバにしないと伝わりませんから…。コトバにすることが苦手なんです」
浩二さん「この世界観なんですよ、お客様を惹きつけるポイントって。まったく新しいお客様でも、一気に懐へ入り込むというか、話していて気がつきません?この世界観!」
ご夫婦そろって真っ直ぐな性格のようです。
麻貴さん「決めたんですよ、会員制のサロンに!入会金をいただきつつも、メニューもそれぞれご用意して。似合うスタイリングを私のセンスでしっかりとお導きします!というサロン」
浩二さん「入会金って?ちょっと、よ〜く考えてみてさぁ、入会金をいただくことって結構なハードルの高さがあるというか、いくら信頼関係があったとしても…×○△○△××なんだよ」
麻貴さん「もうちょっと考えてみていいです、か、ね?」
どうぞどうぞ!である。
社会復帰への不安と緊張を乗り越えていく
コンセプトからメニュー名や提供するサービス、サロン専用のヘアケア用品、ロゴにいたるまで、大体の全体像は描けてきた。事業の構造についても、お客様目線での動きを想定しながら、また、自身の子育てやプライベートな時間を意識しながら組み立てていった。また、資金調達における事業計画書もできてきた。
麻貴さん「月当たりに対応できる最大人数を決めて、一定人数以上にならないようにコントロールする予定です。今はできるだけ自分の理想を現実にして、求められることが多くなったら変化させていこうとも思っています。それにしても、3カ年計画を見ると、なかなかのスローペースな動きで(笑)」
計 画を作っていく段階で、改めて交流関係や経験、持っている技術など、今までを振り返った。子育てや家のことで自分と向き合う時間が少なかっただけに、考え始めると不安が生じることも少なくなかったという。
麻貴さん「久しぶりの社会復帰ですから、大丈夫かどうか不安な時もあります。カット技術とか、カラーとか、特にこれが強い!というものもありませんので、いつも本当に大丈なのかしらって思うこともありますし、世の中を分からなさすぎる私もいたりして(笑)」
だが、いざ動き始めると感覚を取り戻していく。1つの動きに対して、ミスが起きないように周りから固めていったり、たくさんの情報収集をして、また、いろいろな視点でのアドバイスを受けたり、1つのことを決めるプロセスが入念。不安な気持ちが薄らぐように、1つひとつ着実にクリアにした。気がついたら…『サロン・ド・maki』のオープン前夜である。
夢はどんどん広がっていく
2022年9月5日、ゆるゆるとサロンはオープンした。自宅の敷地内にある蔵をリノベーションした空間はお一人様限定のプライベートサロン。いわゆるサロン開業としての王道のプロモーションや告知は行わず、新しく生まれたブランド『サロン・ド・maki』のコンセプトに沿った立ち上がりであった。
「最初のお客様は愛娘。家族全員、笑顔で喜んでくれました。ハサミを持つと久々の感覚というか、仕事をしていた時の記憶がすごいスピードで頭を駆けめぐって。これから仕事を始めるって実感しました」
子どもとの時間も、家族や友人と過ごす時間も、仕事とやりたいことのバランスを考えて日あたりの予約数と顧客数を設定した。もちろん、数カ年の事業計画とキャッシュフローを考えた上であって、事業が持続することが前提での設定である。(そりゃそうだって感じですが)
「いずれはご対応できる時間帯や日数も増えていくと思います。ですが、今は子どもとの時間や今だからこそやっておきたいこともあって。いろいろな意見があると思いますが、私にはこれがベストです」
さすがのインスタのフォロワー数だけあって、サロンで導入するサービスについて公開アンケートをすることもある。やりたいと考えていること、みんなが思っていること、そして、求められていることを瞬時に受け入れてサービス提供していく。当たり前のマーケティング活動も、インスタではごく自然に、麻貴さんらしい言葉で綴られている。例えば『サロン・ド・maki』のオリジナルブレンドコーヒーの販売は豆がいいか、それとも挽いた方がいいか、といった具体だ。
「なんだか条件反射的に動いているように思われますが、実は入念に考えてシミュレーションをしてから動くようにしています」
先を見据えていたとしても、
今、この瞬間を大切にすることを第一に考えている麻貴さん。
7年前に活躍していたころの記憶は、
こうして夢を叶えつつも、身の回りの出来事で上書きされ、
まるで角が取れて石のように、まんまるになっていく。
一つ一つ、ゆっくりと進めながらも、
家族みんなが楽しく、幸せに過ごせればいい。
浩二さん「ところで今日のお客さんは何人?」
麻貴さん「絶好調よ!」
浩二さん「いやいや、だから経営ってのはさ…〇×□」
麻貴さん「わかったって!もぉーー!」
明日もきっといい1日だ。
吉沢麻貴さん
新潟市内の老舗美容室にて、ヘアサロンのイロハを習得。美容ディーラー主宰のコンテストにおいて、フォト部門での入賞歴も。コンセプトが異なるサロンで経験を積み重ね、ハイレベルの接客からマネジメント、経営についても学ぶ。顧客数はだんだんと増えていきつつ、子育てのため一時現場から離れていた。数年ぶりに復帰し、角田浜に念願の自身のサロンをオープン。
サロン・ド・maki
住所:新潟市西蒲区角田浜
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