「ナカサキさんですよね、知ってます!」「ナカサキさん、噂には聞いていますよ!」「あ〜ナカサキさん、頑張っていますよね」。このような声が聞こえてくる今回の主人公、中島早貴さん。絶対的な安心感というか、お客様だけでなく知人からの信頼も厚いというか、その雰囲気はどこで感じ取れるのだろうか…。独立開業のプランニングノートを見ているとそのワケが見えてきた。
「パソコン、タブレット、スマホ、普通に持っていますが(笑)、ノートに書き込まないと頭の中を整理できないんです。とにかく書くこと!これしかないです」
びっしりと書き込まれたノート。例えば、事業計画書でいうところのセールスポイントについて。自身のコトなので改めて客観的に見るとどうなるかというと、とにかく語彙力が豊か。同じコトを言っているようで実は視点が微妙に違っていたりする。サロンのコンセプトを含めたサービスの展開やお客様とのコミュニケーション、予約の入れ方や競合との差別化など、自己分析と他者比較における表現といったら秀逸。とにかく想いがあふれているため、表現の領域がとことん広がっているのだ!
「結局のところ、何を言っているのか分からなくなっている気がしてますが…これでいいのでしょうか。不安な気持ちがあるほど書き出します。書いていくと気持ちが落ち着いていくというか…。読み返すと、私、何を言っていうんだろうって冷静に自分ってさぁって思うこともあったりして(笑)」
実はこの書くという行為は科学的にも心理学的にも立証されているメソッド。マインドフルネスでいうところの〝ジャーナリング〟で、心理学的には〝エクスプレッシブ・ライティング〟と言われている。脳科学の分野においても、書くという行為は重要視されているから、中島さんはこれらのメソッドを自然と体現していると言えるだろう。
「本当はスクショとか写真撮ったりして記録するのがいんですけど、メモリー不足でして」
あちこち巡りながら理想の美しさを求めサロンを研ぎ澄ましていく
中島さんの頭の中にはすでに理想的なサロンが描かれている。だが、これだけノートにびっしりと書き込まれ、コンセプトを含めて事業はクリアになっているけれど、語彙力不足で表現しきれていないところがあるという。
「私を象徴する技術はカラーだと思っています。このカラーの技術が他のサロンと比べるとどう違うのか、と聞かれると答え方が難しいです。サロン特有の特約店商材であったり、扱っているカラーバリエーションであったり、私なりのカラーとの向き合い方があって、その点が違うかなって。通常では使用頻度が高い色を仕入れます。それはそれで王道ですが、私はその取り扱うカラーの変化というか、色を作るにしても他のサロンと組み合わせ方って感じが私の個性かなぁ。それでいて、サロンで扱うカラーを変化させていく、というコトもしています。んーこういう表現で伝わってますか?」
食材に旬があるように、ファッションにトレンドがあるように、ヘアスタイルにも当然ながら流行りがあり、カラーもその時々の女ゴコロで変化するものである。中島さんのカラー選びは、そうした世の中の動きの中で一瞬の女ゴコロに響く色を掴んでいるのかもしれない。だからこそ多くの人たちから信頼され、新しいカラーに挑戦したり、いわゆる自分再発見的な、感じではないだろうか。
「そんなワケないですって(笑)」
カットについて聞いてみると、今までの努力が見えてくる。
「ずっと技術を磨いてきました。朝から深夜まで、営業外も営業中も先輩たちのハサミの使い方を見ながら習得してきました。練習量に応じて技術も上がってきていると実感するようになりましたし、技術については、これはもう理美容業界のみんなが常に技術を学んで、さらなる場所を目指していると思います」
世の中を俯瞰してみると、誰もが向上心を持って学び続けている。明日も、その次の日も。あ、ちょっと言い過ぎ感、ありました(苦笑)
「これで本当にいいのかなぁ」と自問自答するからこそ見えてくる
ノートに書かれたのはあふれる思いだけでなく、空間の具体的なイメージや装飾品、サロンとして必要な美容機器関連、仕入れ先、商圏分析など、多岐にわたる。ノート以外にも、メモ用紙や書類にも書かれていて、これは一体!? というものもあるが、すべて中島さんの頭の中に入っていたコトをアウトプットした、いわゆる事業の種。先述の通り、読み進めると各所に似たような表現はあるけれど、絶妙にニュアンスが違っていたりするから面白い。これも、その時々の中島さんの気持ちの状態を表現しているんだろうと感じる。
「行き先は1つだとしても、その道のりはいろいろあるワケで。いろいろなコトバが最後には結びついていくんです。サービス業で働く人たちや経営者の皆さんは必ずお客様にとってより良いサービスは何だろうか、って考えに考えるじゃないですか。サロンですとお客様がどんどん美しくなって、自分の魅力に磨きがかかって、毎日が楽しくなるってコトに私自身が寄与していきたい。一緒になって…というのが理想系です。これもいろいろな表現が湧いてきて自問自答の毎日ですが(笑)」
資金繰りについても、設備資金と運転資金で悩みに悩んだ。一体、いくらが一般的な金額で、業者から提示された見積もりがいいのか悪いのか…これは中島さんに限った話ではなく、初めての創業において誰もが直面する資金繰りの悩みである。
「美容関係ですと使いたい商材がある程度決まっていれば金額規模は把握できますし、横のつながりや経験などから相場は感覚的にも分かります。一方で、物件とか内装工事とか、今まで関係することがなかったところ、これはもう分かりません!見積もりが高いのか適正なのか、希望を伝えるのはどうすればいいのか、美容以外の業界の人との接し方って言うんでしょうか。先輩に頼りすぎると断りにくかったりしますし、人間関係とか業界標準とか、初めてなので…」
そうした不安から、何度も資金繰りはシミュレーションした。資金調達関係が不安だったら、金融機関と保証協会に分からないことを率直に聞いたりもした。その甲斐あり、段々と足取りは軽やかに、一歩一歩の準備が確かなモノになっていく。
「聞かないで悩むより聞いた方がいいですし、検索するよりいろいろな人に聞いたりすることが大切。結局は、行動することなんだと」
お客様の笑顔と声が届くから、サロンも技術もハイレベルを目指す
長年勤めていたサロンを退職後、フリーランスとして活動しつつ、先輩のサロンでは面貸しにてお客様対応を続けてきた。ハードなライフサイクルの中、体調を崩すことも少なくなく、開業前には体のメンテナンスとして療養期間も設けた。ベストコンディションを目指していたが…そこは勤勉な中島さん。常に仕事モードである。
「お客様からご指名いただけるだけありがたいですし、そんな声には全部お応えしていきたいです。休日であってもリクエストがあれば調整してなんとかご対応したい、そんな気持ちで働き続けています。疲れの蓄積?多少はあると思いますけど、そんなコトよりも頑張らないと!」
独特なトーンで街と同化しているように見えるシンプルさが印象深いお店=clementineは、2023年8月8日、ついに幕を開けた。ゆったりと過ごしてもらいたい思いから、1日あたりの対応人数には上限を設定。内装のあしらいについても理想のカタチを表現した。施術にまつわる器具・機材もハイクオリティーなものをそろえた。
「今までの施術と同じレベル、もしくはハイレベルのサービスを提供しないとお客様が『あれ?』っと思うかもしれない。コストは掛かりますが、譲れないところだなと。悩みましたよ、見積もりの数字を見て『うわ~って!』感じました」
オープンした後に改めて聞いたら「あの時の判断でよかった」という中島さん。いろいろな葛藤が合って、先輩や知人友人に相談して…悩みに悩んだだろう。だが、中島さんの判断の基準はブレることなかった。それは、お客様の笑顔=満足度だ。
「自分がこうしたい!というよりお客様第一ですから。皆さんもそうですよね?」
伝えたいことを上手く表現できなかったり、
日常の中に疑問を投げかけ、
悩みや不安を抱えながら一筋の光に向かって歩いてきた。
「これからも前を向いて、理想と思いを表現していきます」
そう言えば、ナカサキさんは書く字はとってもキレイ。
一方、私は達筆すぎて自分でも何を書いたか読めないことも。
だけど、書くことが大切!と冒頭にお伝えした通りであるが…
「読めた方がいいですよね、それは!」
おっしゃる通りでございます。
中島早貴さん
新潟理美容専門学校卒業後、新潟市中央区のサロンに入社。美容師としての基本技術や接客において経験を積み重ね、2014年・2015年タチカワコンテスト メイク部門準優勝、2016年同コンテストU-25カット優勝、2018年ルベルコンテスト全国大会優秀賞を受賞。顧客180人を持つスタイリストになる。2022年10月にフリーランスの美容師になり、2023年に念願だった自身のサロンをオープンした。
clementine
新潟市中央区西堀
店舗情報はInstagramにて
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