「お椀に餡をたっぷり入れて、お客様に運んだ後にご自身で。ほら、こうやってひっくり返すとすごいでしょ。どどどーっと流れてきて、チャーハンの上にとろっとろの餡がこぼれてきて。迫力あるでしょ?どうです?」

新潟のラーメン事情といえば全国的にもその名は知られていて、縦に長い新潟県は各地域の食文化に根ざしたご当地ラーメンも数々あり、それはそれは新潟=ラーメン大国(もうこんな表現は古い!?)で、県民食、いや、国民食である。全国においても各地域のラーメン熱はアツく!みんな行きつけのお店があったり!食べ方や作法があったり!それぞれの思いでラーメンと向き合っている。

「いきなりチャーハンの話になりましたが、ラーメンも研究の結果!化学調味料を使わない、いわゆる無化調ラーメンで見た目も美しいラーメンに行き着きました」

食生活において栄養バランスを考えることは大切。炭水化物だけ、タンパク質だけとなると他の栄養素も必要だし、偏ってしまうと体調不良になることも少なくない。偏食でも全然OK、という人もいたりするけれど、一般的には栄養バランスよく、がいいだろう。つまり、三食ラーメンの生活が続くと体に異変が起こるのである

「お店がある新潟市西区は高齢者も多く住む地域です。大盛りとか濃厚でパンチのあるガッツリラーメンよりは、あっさりとしたスープで厳選トッピング、という感じの方が好みに合うかなって感じているのですが…経営していく中で変わるかもしれません(笑)」

このチャーハンと、このラーメン、二枚看板のお店ってコトでしょうか。

「やりたいコトはいろいろありますが、まずはこの二つで勝負!です。地元に根ざしたラーメン屋さんを目指していますし、妻と二人三脚で一生懸命、真心込めてご提供します!そうそう、妻の接客は敏腕なんですよ(笑)すっと溶け込んでいくというか、話上手!お客様と話し込んでしまうこともあるので、そこら辺はほどほどにしていただきつつ!ですね」

「そうなんですよ〜接客が大好きで、お話が好きで、主人が作る美味しい料理をいろいろとオススメしているうちに長話になって…(笑)」

仲睦まじいお二人……………今日もいい一日になりそうです。

 

ラーメンときどき釣り、ラーメン業界に入って20年以上で見えたバランス

「2002年、新潟ではラーメン店の多店舗展開で知られている企業に入社しました。独立するまでずっとこの会社で学ばせてもらって、メニュー開発、店長や新店舗立ち上げなど、ほとんどの業務を経験させていただきました。社内コンペでは優秀社員特別賞をいただいたり、店舗別の新メニューコンテストで優勝したり、プレーヤーとしての経験は十分なほど、たくさんの現場に立たせていただきました。一方で、仕事に専念しすぎてストレス発散が……。そんな時は釣りなんですねぇ」

経歴の話を聞いていると、山際さんはひとつの会社でとことん突き詰めてきた。率先して最前線の現場に立ち、商品を開発し、お客様と、そしてラーメンと向き合ってきた。楽しくてしょうがない時期があっても、気がついたら疲労が蓄積して…という話はよくあるはず。山際さんも、そんな状態になるスレスレだったと思われるが…実はそんなコトはなく、終始大満喫だったという。

「楽しんですよ。何をしていても楽しい。ラーメン作りについても、それぞれの工程に興味津々でしたし、わからないコトは先輩に聞いたり自分で調べたりして。どうすれば美味しくなるのか、もっとお客様に喜ばれるにはどういう商品がいいのか、っていつも考えていましたよ、ほんと!」

ラーメンが好きで好きでたまらない山際さんである。

「休みの日は釣り。夜釣り、早朝、昼間、夕方、時間があれば釣りに出ます。そうそう、ここ最近、釣り人が増えていると思いますね。みんな糸の先をじーっと見て、頭の中を空っぽにして、海面を見ながら自己と向き合って。ファミリーも、女性も増えてますねー、どうですか?ご一緒しません?」

ちょっと…私は…アオイソメが苦手で…ぼーっとするのも苦手で…。「慣れです、慣れ!」釣りキチ山際さんである。

 

現実と向き合いながら、自分の中にあった〝つもり〟を整えていく

「勤続年数20年、夢だった自分のお店を出すタイミングかなって」

今までの経験だけでなく、物件も、仕入れ先も、今後の展望においても、先行きがはっきりと見えてきた。話題性においても「このチャーハンがあれば!」と鼻息は荒く、地域性においても「このラーメンがあれば!」と自信に満ちあふれている。ただ、資金調達や販路開拓といった創業計画書の文脈においては、分からないコトが分からない状態であるため、自信の考え方も含め整える必要があった。

「いろいろなお店で取り組んできた経歴はラーメン作りに対する自信につながりました。しかし、これから出店する場所での予測値というか、市場分析でしょうか。本当に、お昼にこれくらいのお客さんが来るのだろうか…と思うと不安になりますし、ラーメン一杯がこの価格で大丈夫なのか、と聞かれると揺らいでしまいます。今まで会社員だったおかげで、いい意味でも自信を持てたところはあります。しかし、独立するとなると、今まで全力で走り続けてきたから、そういったところで足を止めてしまい…考え込んでしまいましたが…見つめ直すきっかけになりました!」

創業計画書を見ると絶好調な数字が並び、初の独立にしては上出来すぎる計画。当然ながら、金融機関や支援機関からは「よりタイトに、現実的に」というようなアドバイスを受けつつも、経験からの見込み地のため見直しようがないというか…どのようにタイトにしていくか…で迷ってしまったという。

「見込みという計画がいかに重要なのか見えてきました。どうやって根拠を用意するのか、数字に対する説得力をどう持たせるのか、そういった準備がないと空論になるんだって。お店はやってみないと分かりませんが、営業している状態を想像して現実的にどうなんだと。つまり、自分の自信だけでは誰も頷いてくれないってコト。〝つもり〟になっていたことに気がつきました」

計画にストレスをかけ、より現実的かつ根拠ある数字を突き詰めていった山際さん。だんだんと、自分が厨房に立ち、奥様が接客して、暖簾をくぐってやってくるお客様の姿がはっきりと見えてきた。いよいよ、である。

 

地域密着型で向き合い続けて見えてきた〝必然性のある一杯〟

2023年11月4日寅の日、山際夫妻念願のお店『中華そば 貴の香』はオープンした。開店一週間前にお店に立ち寄ったときは準備真っただ中だった。

「本当は10月オープンを目指していましたが、いろいろな手続きとか工事が生じて…11月になってしまいました!とはいいつつも、準備のコトを考えるとちょうどいいスケジュールだったと思います」

工事が進んでいくうちに内外装の姿から実際のお客様の目線で見ると、な~んか違う部分もあったりして変更したり、行列ができた場合の対応の仕方やInstagramでの情報戦略やグーグルマップへの登録など、意外と考えることが多かった。夫婦二人三脚といってもピークライムのホールスタッフは絶対的に数名確保が必要で、求人募集もやらなければならなかった。が、しかし!である。

「お店の前にコピー用紙で作った求人募集くらいなんです。そのチラシを見て、ご近所の方が応募いただいて!結構な人数で本当に驚いているんです!」

しかも…

「この紙を見て気にしてくれるご近所の皆さんが本当にたくさんいて!子供たちは学校帰りに立ち寄ってくれたり、お年寄りが見に来てくれたり、もうびっくり!感激ですよ」
地元密着を考えていた創業計画書、有言実行のごとく、実現してきた山際夫妻。夢描いていたお店のスタイルになるまでは、地域密着で感じていく必然性を隠し味に、どんどん進化していくコトだろう。

》ご主人
「お店のロゴができて、外に看板が設置された姿を見ると、今まで体感したことのない高揚感がありました。不安?それはあったとしても表には出しません。この先は楽しさと期待感しかないです!」
》奥様
「オープン前もオープン後もずっと不安ですよぉ。開店準備がずっと続けばいいなぁなんて思うこともありました。接客?それはもう自信たっぷりですよ。子供たちと年配の方たちに好かれるタイプです(笑)」

おしゃべりしながら食べたり、
むむむ!と考えながらスープを口に注いだり、
一杯のラーメンをどう食べるかは人それぞれの楽しみ方がある。

調子がおかしいな、ついてないな、って時こそ、
山際夫妻のラーメンが元気をもたらしてくれるだろう。
「妻の接客、ハンパないですよ(笑)」
「主人のラーメンとチャーハンが美味しく包み込みます(笑)」

学校の帰り道に立ち寄っていたラーメン屋さんの記憶は
大人になるにつれて鮮明に、色濃くなっていき、
豊かな人生とともに深く刻まれていくだろう。

》ご主人
「釣り、行きます?」

》奥様
「ずっと働いて、ずっと釣って、ちょっと休んでほしいわ」

若いっていいなぁ。
よし、今日は大盛で!いや、やっぱり少なめで(泣)

 

山際貴紀さん

新潟市内で複数店舗を展開するラーメン店に入社。ラーメンの基本を習得しながら、新店舗立ち上げや数々の店舗の店長を務める。2023年11月には念願だった自身のラーメン店「中華そば 貴の香」をオープン。三度の飯より釣り好き。

中華そば 貴の香
新潟市西区小針南23-4
平日10時~14時30分LO、17時~21時LO、土・日曜・祝日7時~14時30分LO、17時~21時LO
月曜休み
※営業時間や定休日は変わる場合があります。最新情報はInstagramをご確認ください
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