時の流れがゆったりとした静かな空間。窓から見える景色は目的地へ急ぐ人、信号待ちをしている人、納品業者、観光客などさまざま。歩くスピードは人それぞれ、ゆっくりの人もいれば急いでいる人もいる。『グラストポーデ』の目の前にある交差点はそんな場所だ。今回のお話の主人公は、そんな喧騒を感じさせないお店でポーセリンアートを扱う『グラストポーデ』のオーナー・スズキユキエさんである。

「も〜!たいへ〜ん!がんばらなくっちゃ〜!」

お会いするたびに感じているが、この余裕さはどこから来るのか(笑)。とても必死には思えないような気がするけれど、スズキさんが言うには超必死!いつかできればいいな、と考えていた事業は立ち上がってからすでに1年半(掲載時)が過ぎようとしている。

「も〜!たいへ〜ん!実家のワンちゃんがトリミングしてカワイ〜〜〜イ!」

そんな中、『グラストポーデ』は一体いつ営業しているのか!? という不思議な現象が起きていた。

「2025年6月になって、ようやく整ってきた感じです。ディスプレーも、商品も、少しずつ、改良を加えながら準備してきました。ちょっと…準備に時間がかかりすぎたかなって(笑)」

起業したのは2024年2月、お店の営業はしていないこともないが、実質していなかったというか、予約制だったため筆者がお店の前を歩いた時はたまたま閉まっていた、というコトにしよう。

「はい、そんな感じです(笑)」

スズキさんとは起業前から伴走支援をさせていただき、この珍道中ではないけれど、この不思議な現象に寄り添ってきた。スズキさんのこの動きを一言で表現するとしたら〝経験がある大人の余裕さ〟だろうか。つまり、焦りがなく、ガツガツもしていない、懐の深さと表現すればいいのか…である。

「気持ち、大切です。一生懸命、前を向いて歩いています。とは言っても、緩急ってありますよね。勢いがある時もあれば、ゆったりする時もある。え〜なんにもしていないように見えます〜〜?」

スズキさん、今日もいいお天気ですね(笑)

 

2020年の緊急事態宣言が私の人生と働き直しを考えるきっかけに

スズキさんの経歴はちょっと変わっている。前職は東京にある大きな病院の看護師として勤務。配属先では看護婦長を務めるコトもあった。新型コロナウイルス蔓延時には医療従事者として最前線に立ち、医療現場に走る緊張感漂う中、患者たちと向き合った。

「皆さんご存知の通り、緊急事態宣言時の医療従事者はとても厳しい規制がありました。自宅に帰れず、家族とは別にホテル暮らしの人もいましたし、入院患者への面会はもってのほか。病院に入るコトも大変でしたし、それ以上に私たち医療従事者のストレスは言葉にできないほどでした。今、思い返すとアレはなんだったのか?と感じるコトもありますが、日本全体が緊張して、おかしな噂話があったり、都外に出ようモノなら…でしたね」

コロナ禍において気軽に友達とは会えなかったけれど、万全な感染防止に努めながら昔から習っているダンス教室へ通っていた。とはいっても、友達と会えないコトはストレスで、発散する場もなく、勤務先の病院と往復の日々が続いた。

「30歳の頃、たまたま出会ったポーセリンアートのレッスンで感銘を受けました。陶器って売っているモノを買う、と思っていたのですが〝自分で作れる〟と知ってからハマっていきました。そんな体験がきっかけで、ポーセリンアートの教室をいつか実現したいと思い始めました。最初は思っているだけで、実現しないだろうなって」

新型コロナウイルスは終息へ向かうどころか変異を繰り返しながら落ち着く気配がない。医療従事者は疲れ切っていた。そんな時、スズキさんは決意をする。

「好きなコトをして生きていこうと思いました。だったら、実現しないだろと思っていたポーセリンアートの教室を立ち上げて夢を実現しよう!と決めました。都内だとお金がかかりますし、コロナ禍の時から新潟に戻ろうかなって考えていましたら、いろいろとつながっていって〝決めた〟って感じです」

新潟へ戻ることを考えていた頃から補助金情報も調べていたという。

「活用できるメニューがあったら使いたいなって」

事業構想がドライブしていく要素が整ってきた。2024年、夏の話であった。

 

いつか実現すればいい、ではなく、本当に実現させるコトの大切さ

準備が整ってきたと思ったら想定外のコトが起きた。物件が見つからない!というコトだ。
「ネット検索だけでは見つからないですね。知り合いが少ないためどうやって探せばいいのかとても苦労しました。考えていたスケジュールが変わっていき、いつオープンできるのか見えなくなっていきました」


いろいろと探す中で一番有効だったのは街を歩くコトだったと言う。
「知り合いがいないのであれば自分から動いて築いていくしかない!と。苦手なコトですが自分を奮い立たせて頑張りました」
人から人へ、あっちこっちと見ながら物件を探す日々。ようやく見つかったのが東堀通にある物件だった。
「ココだって!(笑)」


一気にオープンへ向けて準備が進む。資金調達、内装工事、商品制作など、やるコトが山盛りになった。
「すべてが初めてのコトなので戸惑いました。どう進めていけばいいんだろうって。進めていくにしても、相手のペースもありますし、なんとかうまく進むように交渉したり…でした」
あちこち行って準備を進めながらも目標としていた日に〝いつか実現したらいいな〟と思っていたお店がオープンした………が………商品がない!という事態に。


「数日のオープン後、すぐ制作活動に入りました。この期間が長かったので『このお店はなんだろう』『いつ営業しているんだろう』と思われていたかもしれませんね」
商品がそろってきたのはごく最近の話(笑)で、お店のPRもようやく本腰、である。ここで、ポーセリンアートの美しさを見ていただこう!

このゆったりとしたプロジェクトの進み方に
童謡『うさぎとカメ』が思い浮かんだ。
1つひとつの積み重ねと諦めない気持ち。
急ぎすぎず、自分のペースを維持し続ける。
だからこそ、夢は実現したのだろう。

「実家に帰っていただけです。料理が美味しくて〜も〜最高〜」

スズキさん、その余裕さが美しい。
で、今日はお店、開いているのだろうか。

「はい、頑張ってます!」

 

スズキユキエさん

新潟市出身。看護師からポーセリンアート作家の道へ。看護師、行政書士のほか、さまざまな資格も保有。2024年、念願だったショップ『グラストポーデ』をオープンさせた。

glasstoporde グラストポーデ
新潟市中央区東堀通6-1041 東隆ビル1F
※営業日・時間・定休日はインスタグラムにて
Instagram

 

>関連記事

大人の余裕あるひとコトQ&A

私のコトバ

promocarrie